第3話 謎の金属


 夜中の二時とだけあって家族はみんな寝てるはず。

 努めて音を立てないよう慎重に部屋を出て玄関へ。

 鍵を開ける音にさえ気を払いつつ、なんとかバレずに外へ出た。


「この時間帯なら大丈夫か」


 周囲に目を配りつつ斥力跳躍で高く跳び、引力飛行に移行。

 夜空を紫色の稲光で照らしながら急いでアジトへと向かい、ベランダに着地する。

 外側から磁力で鍵を開け、靴を脱ぎ散らかして中へ。


「颯太! 来たぞ!」


 階段を駆け下りてリビングへ。

 すると、フライパンを持って武装した颯太の姿がすぐに目に入る。


「なにしてんだ? 人を呼びつけといて」

「あ、あれだよ、あれ」

「あれ?」


 指差された先に視線を向けるとぎょっとする。

 得体の知れない何か、液体のような、スライムのような、不定形なものがある。

 色は銀、ぷるぷると震えていて、何故だか光沢があった。


「な、なんだよ、これ」

「だから、棘だよ、棘!」

「棘!? これが? なんで!?」

「俺が知るかよ! 寝ようと思って振り返ったらこうなってた!」


 こうなった原因は一切不明か。


「よ、よし、わかった。どうしてこうなったかは置いといて、あれは棘だ。たぶん、溶けたんだ。元々金属っぽい質感してたし」

「溶けたってなんで?」

「さぁ……それは……なんでだろ」

「あの棘を運んできたのは紫狼だろ!? なにか棘に異変はなかったか!? なにかしたとか!?」

「異変なんてなにも。それに棘にしたことと言えば磁力で一纏めにしたくらいで……ちょっと待って、もしかしてそれが原因ってこと?」

「異能と異能が影響し合ったってことか? そんなことありえるのかよ」

「異能の研究は未だに亀の歩みだ。わからないことが多すぎる。絶対にあり得ないだなんて言い切れないでしょ」

「それはそうだけど……ま、まぁ、仮にそうだったとしてどうするんだよ!」

「俺がなんとかしてみる。異能のせいでああなったんなら、元の形に戻せるかも」

「気を付けろ!」


 そっと足を進めるたびに、震動で表面が波打つ。

 それが生きているように見えて余計に気味が悪い。

 恐る恐る近づいて紫電を纏った指先で棘だった何かに触れる。

 瞬間、指を伝って何かが腕を這い上がってきた。


「嘘でしょッ!? うわッ!?」

「紫狼!」


 冷たい銀色が体中を蠢いて、取り殺すように全身を包む。

 手で払い退けようとしても波打つばかりで散りはしない。

 このままじゃ溺れる。


「やばいやばいやばい! 紫狼が死ぬ! どうする、どうすればいい――そうだ。紫狼! 異能を解け! そいつ雷に反応してるぞ!」

「そっか! わ、わかった!」


 縋るような思いで異能を断つ。

 全身を駆け回っていた紫電は掻き消え、同時に何かも活動を停止する。

 というか、完全な個体の金属になった。

 先ほどまで流動的だったのに、今ではカチコチで指先一つ動かせない。


「一応、助かった……かも」

「はぁ……一時はどうなることかと」

「一安心してるとこ悪いんだけど、まだ何も解決してない」

「とにかく、紫狼の異能で形が変わるってことはわかったんだ。上手くやれば脱出できるかも」

「わかった、やってみる。じゃあ」


 異能を発動して紫電を帯びる。

 するとやっぱりと言うべきか、全身を覆う謎の金属が再び蠢き出す。

 全身をまさぐられているようで良い気分じゃないけど、今は集中だ。

 雷の出力、オンとオフ、思い当たることを片っ端から試していく。


「こう……かな? いや、それとも……」


 流動的な謎金属の動きを肌で感じ取りながら異能を出力し、徐々にコツを掴む。

 全身を覆っていたものが吸い寄せられるように体表を這い、右手に集う。

 最後には球体になって磁力によって浮遊した。


「助かったぁ……なんとかなるもんだよ、ホント」

「まさか飲み込まれるとはな。速く捨てちまおうぜ、そんなの」

「そうだね。何かに使えそうではあるけど。でも、捨てるってどこに?」

「そりゃあ……不燃ゴミとして」

「絶対に回収されないし、下手したら事件になる」

「だよなぁ……あ-、じゃあ庭の端に埋めるか。箱にでも入れて」

「嫌なタイムカプセル。わかった、スコップとかある?」

「あぁ、物置にあったはず。これ鍵な」

「わかった用意しとく」


 アジトに出ると庭がライトアップされる。

 暗闇から炙り出された庭のサイズはちょっとしたグラウンドくらい。

 そこに置かれた物置だって結構な距離を歩くことになる。

 別荘って凄い。


「さてと、スコップは……」


 箒が数本、ちりとりが幾つか、重なったバケツ、何の用途か知らないけど金属製のハンマーまで見付けたけど、スコップが見当たらない。


「あったか?」

「なーい。ホントにここにあるの?」

「そのはずだけど」


 どこから見付けて来たのか、颯太の手にはお菓子の詰め合わせが入っているような円形の缶が幾つか抱えられていた。


「どうする? スコップがなきゃどうにも――」


 不意に何かが地面にさっくり刺さったような不可解な音がする。

 思わず視線を取られると、そこには今までなかったはずのスコップが刺さっていた。


「……なかったよな? ここに、スコップなんて」

「あぁ、なかった。確実になかった」

「じゃあ、なんで……」


 不可解な現象を訝しんでいると、スコップが一瞬だけ紫色の光を放った。

 それは俺がいつも身に纏っているもの。見間違えるはずがない。

 この明滅は間違いなく俺の異能だ。


「これってつまり……」

「この謎金属から落ちてきたってこと、だよな」


 地面に刺さったスコップは流動的でもなく形をしっかりと保っている。

 掴んで引き抜いてみても同じ。頑丈で折れ曲がったりする気配はない。

 そして紫電を流してみると液状化して再び謎金属に合流した。


「颯太」

「なんだ?」

「良いこと思いついた」


 謎金属の塊に紫電を流してヘルメットを形作る。


「これでスーツを作ろう」

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