第2話 青い目のドラゴン乗り

 学舎の壁に縁取られた青空に、数頭のドラゴンが舞っている。太陽のまぶしさに目を細めながら、青年はそれを一人静かに眺めていた。


 肩まで届く漆黒の髪が風になびき、彼の青く鋭い瞳がドラゴンの動きを追う。約束の時間はとっくに過ぎているというのに、待ち合わせの相手はまだ現れる様子がない。高い空を飛び回るドラゴンを眺めながら、青年は仕方なく時間を持て余していた。


 彼がいる訓練場の砂の上では、ドラゴンにまたがった乗り手たちが次の飛翔の合図を待っている。青い制服に身を包んだ彼らが動くたびに、左胸に刺繍された金色の紋章がきらきらと輝いた。


 「セロさーん!」


 名を呼ばれた青年がふり返ると、赤い屋根の宿舎から一人の少年が駆けてくるところだった。栗色の癖っ毛が少年の走る動きに合わせて、ふわふわと揺れている。


 「すみません、寝坊してしまっ……うわあっ!」


 よほど急いでいたのだろう。少年は突然つまずくと、そのまま勢いよくセロの足元まで滑り込んできた。


 周囲に笑いが巻き起こるなか、セロは黙って少年の頭を見下ろしていた。冷たい彼の瞳だけが灼熱の訓練場に馴染んでいない。


 「あ、ははは……すみません……」


 砂まみれになった顔を恐る恐る上げて、少年は地面に腹ばいになったままセロを見上げる。彼の姿はちょうど太陽に重なって、目の前に立ちはだかる大きな影に見えた。


 やっと来たか。

 うんざりとした様子でセロは口を開いた。


 「……遅いぞ、ターク。これで何回目の寝坊だ?」


 タークと呼ばれた少年は慌てて立ち上がると、指を折って真剣に数え始めた。砂埃で汚れた彼の制服から砂粒がパラパラと落ちるのを見て、セロは眉をしかめる。


 「えーと……五回目?」


 ちらりとセロを見て、タークは恥ずかしそうに笑う。まるで、いたずらがばれたときの子どものようだ。


 セロは呆れ顔でため息をついたが、彼はそんな先輩の様子など、まったく気にしていないらしい。ビシッと背筋を伸ばして敬礼すると、タークは満面の笑みを見せた。


 「ドラゴンを連れて来ます!」


 服についた砂を払うのも忘れて、タークはどこか楽しそうに、ドラゴンが待つ竜舎へと駆けて行く。騒がしい彼がいなくなると、セロはまた砂漠のような広い訓練場に一人ぽつんと取り残された。


 「まったく……」


 ――飛翔っ!


 セロが深いため息をついたそのとき、力強い号令とともに三頭のドラゴンが翼を広げた。砂埃を巻き上げながら、その巨体はどんどん上昇していく。


 やがて学舎の上空でゆっくりと旋回を始めたドラゴンに背を向けて、セロは訓練場の隅へ歩いて行った。

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