待ち人来る驚く事あり
閉会式や片付けが終わり、最後に円陣を組んだりした後、解散となった。各々のグループでこれから打ち上げとかしたりしなかったりするのだろう。
「膝、大丈夫ですか?」
「うん、なんとか」
私は怪我をした桐原さんが大丈夫か気になるので、一緒に家まで帰る事にした。桐原さんの両親に一緒に帰らなくて大丈夫か聞かれたそうだが、先に帰って美味しいご飯作っててと返したらしい。
「のどかわいたぁ~」
「持ってきた水筒はどうしました?」
「飲み終わった。空っぽ」
「公園の自販機で、何か買って行きましょうか」
「おっけ~」
公園に着き、桐原さんが何を買うか吟味し始めた。
「何買うんですか? 麦茶? 炭酸?」
「これ」
桐原さんが選んだのは、いちごミルク。私が好きなやつ。取り出し口にごとっと落ちてきたペットボトルを取って、ベンチに座って蓋をあけごくごく飲み始める。
「さのっち?」
「はい」
「ずっと見てるけど、欲しいの?」
「正直、それ好きなので、欲しいです」
「やっぱり。いいよ、喉潤ったから」
中身が半分くらい減っていたいちごミルクのペットボトルを受け取り、私も飲み始める。
「改めて、ありがとう」
「急にどうしました?」
「いや、リレーで追い抜き返してくれて、優勝できたから。今日のさのっち、凄くかっこよかった」
「あ、ありがとうございます......」
「ふふっ。さのっち、顔真っ赤だよ?」
こう面と向かって褒められると、存外恥ずかしいな。お互いの間に、しばらく沈黙が流れる。
「ねぇ、あの、さ」
「はい」
「私、さの......希依の事が......えっと、恋愛的な意味で、好きなんだ」
「ごほっごほっ......えっ!?」
唐突な告白に、私はいちごミルクでむせてしまう。正直、桐原さんの事は割と好きなので、多分......付き合える、と思う。だけど、私には楓那が......いや、ちょっと仲良かっただけだし、仲良かった、だけだし......
気付いたら、私の目から涙がぽろぽろと零れ落ちていた。
「ご、ごめん、嫌だったよね! 忘れて忘れて」
「いや、ちがくて、桐原さんの事は付き合えるくらい好きだけど、どうしても忘れられない人......幼馴染の、女の子がいて」
「そっか、辛い思いさせちゃって、ごめん。でも、それなら問題ないよ」
「問題ないって、何が? どういう」
「だって、私がその幼馴染......桐原 楓那だから」
「......えっ......?」
――待たせちゃってごめんね
――あと、今まで散々いじわるしたのもごめん
――久しぶり、きーちゃん
♢♢♢
「なんで言ってくれなかったのぉぉぉぉ!?」
「いやぁ、まだあの時の事で怒ってるかなって」
「本音は?」
「ちょっときーちゃん弄ってやろ~って」
「このいたずらっ子め~」
「いひゃいいひゃいいひゃい」
幼馴染兼いたずらっ子の頬をつねる。数年ぶりに触ったそれは、相変わらず柔らかかった。
「でも、嫌われちゃったかなとか、気にしてたのは本当だよ」
「何言ってんの。私が楓那の事、嫌いになるわけないじゃん。それに、楓那だとわからなくても、付き合ってもいいと思えるくらいには、今の楓那もその......好きだし」
「きーちゃん......!」
私の言葉を聞いて、楓那が嬉しそうに私を見つめてくれる。
「えっと、いろいろ聞きたい事あるんだけど、まずさっきの告白普通にokしたり断ったりしたらどうするつもりだったの」
「少し機を見て、カミングアウトするつもりだった。断られた場合なら、その後もう一回告白してたかな」
「それで、苗字が変わったのは?」
「母が再婚してさ。それでまたここに住みたいってお願いしたら、大丈夫だって、新しいお父さんと三人暮らし」
「両親に無理だって言われたら?」
「高校からこっちで一人暮らししようと思ってた。その時は、あと一年遅くなってたね」
「それで、昔と比べて諸々変わってたのは?」
「きーちゃんみたいに明るくなりたいと思って、引っ越し先で努力したの。というか、きーちゃんこそ昔に比べてずいぶん落ち着いた感じになってたけど」
「いや、楓那が居なくなって、元気があんまり出なくなってさ」
「そんなに寂しかったか~このこの。あ、でも友達はちゃんと作らないとダメだよ?」
「友達はちゃんといーまーすー」
「ほんとかなぁ?」
「......でもさ、肝心な所で、助けてくれる優しい所とか、大事な事を一生懸命頑張れるかっこいい所は、昔と変わってなかった。きーちゃんはやっぱりきーちゃんだよ」
「......えーっと後聞きたいことはーどれにしようかなー」
照れ隠しにすっごく棒読みで喋っていると、続けて楓那が話す。
「私からも、一つ聞いていい?」
「いいけど、何?」
「告白の返事。改めて、私とお付き合いしてくれますか?」
可愛い顔を真っ赤にして楓那が返事がわかりきっている質問をしてきた。もう......さっき付き合ってもいいくらい好きだって、言ったじゃん。
「もちろん。これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ、不束者ですが、よろしくお願いします」
お互いに少したどたどしく頭を下げる。
「ねぇ」
「なぁに?きーちゃん」
「約束、覚えてる?」
「うん......今度こそは、ずっと一緒だよ」
「うん、約束」
私と楓那は互いの小指を絡ませて、二人でふふっと笑い合った。
(了)
待ち人来る驚く事あり 氷河 雪 @berry007
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