争事さわりあるべし
あれから桐原さんとは、時々合同体育でペアを組んだり、休み時間に話したりしながら、中間試験が終わり、中学最後体育祭が近づいてきた。
それで、肝心の選択種目なのだが、昨年一昨年もそうだったのでわかりきった事ではあったが、私が運動できるのが災いし半ば強制的に赤白対抗の代表リレーに選ばれてしまった。
そもそもこの体育祭は1,2組の赤と3,4組の白で分かれて争う。ちなみに私は3組。桐原さんは4組。そして、この対抗リレーは各クラス三名の代表×三学年二組の十八人が二チームで争うリレーだ。あと、同学年の間では、赤なら1組→2組→1組と違うクラスの人と交互にパスをするってのが、ちょっと変わった所。
またリレーかぁなんて思いながら、運動苦手な人たちが比較的楽な種目の枠をじゃんけんで争うのをボーっと見ていた。
「さのっちアンカーなんだ! やっぱり凄いね!」
「そういう桐原さんもその一個前なんですね。ちゃんとパスくださいね」
「えぇー、選ばれたんだからさのっち褒めてよぉ~」
「足が速いから褒められたりモテるのは小学生までですよ」
まぁ桐原さんはそれ抜きでもモテるだろうけど、と心の中で付け足す。
「さのっちは、陸上部とか入らなかったの?」
「誘われましたけど、いまいち情熱とか出ないから、って断りました」
「......そっか」
今日から午後の体育祭練習時間でリレー含む選択種目の練習が始まった。私達はまずバトンタッチの練習からだ。私はアンカーなので、練習相手が今までと違って一人なのは、割と楽だ。遠くを見ると大縄跳びの練習をしている生徒達が目に入る。
「それじゃあ、私達も練習しましょうか、桐原さん」
「おっけー!」
「とりあえず私は構えて待っているので、走って一回試しにやってみましょう」
「りょーかい!」
そう言うと桐原さんは軽く走って私と距離を取る。
「それじゃいくよー!」
「どうぞー」
そう言うと桐原さんは私に向かって走り出し、私もタイミングを見計らってゆっくりと走り出す。
「はい!」
掛け声と共にバトンが渡され、それを握りしめそのまま軽く走る。
え、なんか凄く上手くいった。これ多分、桐原さんが私に合わせるの滅茶苦茶上手いやつだ。そういえばバレーの授業の時も、桐原さんは試合で沢山活躍していたし、人に合わせるのが上手いのだろうか。
「やった! 上手くいったね!」
「かなりスムーズにできましたね。びっくりしました。でも、油断せずにちゃんと練習はしましょうね」
「もちろん! それはそれとして私達、相性最高みたいだね!」
相性最高、かぁ......
「ねぇきーちゃん」
「なぁに? ふうな」
「これ、見て?」
「相性占い? 図書室から借りてきたの?」
「そうそう......それでね、私のうお座ときーちゃんのみずがめ座、相性最高なんだって!」
「さのっち~? だいじょぶ~?」
「あっ!? あ、ごめんなさい、大丈夫です」
「どしたの? ボーっとしてたけど」
「ちょっと、物思いに、ふけってました」
「熱中症とかあるんだから、きつかったらちゃんと言ってよ?」
「あ、全然そういうのじゃないんで、本当に大丈夫ですから......そういえば桐原さんって、星座何座ですか?」
「あっあっえっとぉ~......うお座だよ、急にどしたの?」
「いえ何でも、それじゃあ、続きしましょうか」
♢♢♢
体育祭当日は大接戦となり、ついに最後の種目である対抗リレーの時が来た。互いに数点差なので、ここで勝利したチームが総合優勝だろう。もっとも、もう少し点差があってもリレーの配点は結構高いのでそうなっただろうが。
「ねぇさのっち、緊張してる?」
「まぁそこそこ。桐原さんは、平気そうですね」
「そんなことないよ。ほら」
「わっ」
そんな事をいうと桐原さんは私の右手を掴んで、胸部のあたりに当ててきた。確かに、すっごくドキドキしてる。それにつられたのかわからないが、私もドキドキしてきた。でも確かに、転校生なのにこんな大事な種目に選ばれて、緊張しないわけがないよね。私は胸に当てられた手をそっと放す。
「ごめんなさい。平気そうなんて言ってしまって」
「気にしないで、別にいいよ。あ、そろそろ入場の時間だよ」
先生の起立の合図で、出場選手が一斉に立ち上がる。入場の音楽に合わせ、私達は駆け足で進みだした。
一年、二年とバトンが回っていき、今三年生の中でも前の方の順番の人が必死に走っている。もうすぐ私達の番だ。現在、我らが白組が赤組を少し離して走っている。ちなみに、三年生は半周ではなく全周走るので、前には桐原さんが座っている。
「それじゃ、行ってくるね」
そう言って桐原さんは立ち上がり、交代位置につき、前の走者のバトンを受け取り走り出す。赤の選手も交代したのを確認し、私も位置について桐原さんが走るのを見る。その時、それは起こってしまった。
桐原さんが、半周を過ぎたところで転んでしまった。
もし、これで追い抜かれてそのまま負けてしまったらどうなるかな。皆は代表として頑張ってくれた桐原さんを責めないだろうし、励ましてくれると思う。だけど、桐原さんは、しばらく自分のせいで負けたと抱え込んじゃうのかな。明るい桐原さんが、私みたいにちょっと暗い感じの性格になってしまったりするのかな。それは、嫌だな。
追い抜かれながらもすぐに立ち上がった桐原さんは、痛いだろうに、再び加速し全速力で走る。
あ、そっか。桐原さんは諦めてないんだ。私も、何もう負けた時の事考えてるんだ。
桐原さんはきっと焦っている。だから今度は私が合わせる番だ。桐原さんが近づいてくるのを見て、ゆっくりと走り出す。
「希依!」
いつもとは、何もかもが違う掛け声。私は少しだけ走る速度を緩め、
「まかせて!」
がしっとバトンを受け取った。後は、全速力で走るだけだ。
「勝ったよ! 桐原さん!」
だらだらと汗をながし、はぁはぁと荒い呼吸をする。あそこから逆転勝利した私を見て、桐原さんが驚きの表情を見せる。
「ありがと、さのっち」
私達含むリレーの選手が退場した後、桐原さんの傷を確認する。
「血が出てる。救護テント行かないと」
「ひっ、ちっ血が」
「えっと......乗ってください、背負って運ぶので」
屈んで背中を差し出し、私は桐原さんをおんぶする。
「血、見るの苦手なんですか?」
「うん、昔から苦手。血が出てるのを見ると、私怪我したんだって、認識させられるから。転んだ時とかはいつも......友達に運んでもらってた」
「そうなんですね。私もよく転んだ......友達をこうやって運んでました」
また、昔の事を思い出した。幼馴染との思い出の一端。あの日々は、また帰ってくるのだろうか。
「......変化してるようで、昔とおんなじだ。この感覚、懐かしいなぁ」
桐原さんが何か呟いていたが、考え事をしている私には何を言ったのか聞こえなかった。
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