第3話 遺伝子の箱舟
ズボンを履く最大のデメリットは子供の頃にイジメに合っていたのだ。
それからだ、他者に対する不信感が生まれた。
孤独な日々は私を変えた。行き着いた先は地獄であった。
明日になったらこの地獄から抜け出せる。明日になったら。そんな思いで生きていた。
高校に進学すると、運命の歯車は回りだした。それは生活が一変したのだ。男子の制服を着ても怒られなかったからだ。
でも、私は女性だ。その合間でかっとうが生まれた。
私は校内の木下のベンチで生きる意味を探していた。
「麗葉、こんな所で何しているの?」
「自分探し」
「お、哲学か」
「ま、そんなところ」
「でも、私達、生物は遺伝子を後世に運ぶ箱舟の様な気がするの」
「かすみは難しいことを言うのね」
「えへへへへ、私って女子しか愛せないじゃない、それで色々考えるの、この私の遺伝子は残せないなら、箱舟転覆ってね」
その言葉に深く考えさせられる。
「私はスカートが苦手なだけでいたってノーマルよ」
「嘘つき、私のことが好きでしょ」
……。
黙り込む私にかすみは実に余裕の表情だ。完全に私の心を読み切っている。すると、かすみは誰にも分からないように私にキスをしてくる。
甘い、二度目のキスだ。
私は幸福感から目がトロンとする。
「やっぱり、大好きだ」
「試したの?」
「言ったでしょ、転覆した箱舟に怖いモノなどないってね」
その後はかすみが隣に座り肩を寄せてくる。遺伝子の箱舟か……私はまだ戻れる。そんな事を思いながら隣にはかすみが居た。
その後、私はかすみを避けていた。書道部の部活の時も甘えてくるかすみを避けていた。遺伝子の箱舟の話を聞いた後は言い知れない気持ちになったからだ。確かに私は男装しているが。この複雑な気持ちを整理できないでいた。
「むー麗葉、私のこと避けている」
「ゴメン、私、まだ、整理がつかない」
そう言うと部室を出る。かすみは追って来なかった。ホント、分け分からないよ。こんなにもかすみを求めているのに逃げ出した。私は卑怯だ。下を向き駐輪場にトボトボと歩いて行く。
自転車に乗ると涙が出ていた。都合良く雨が降り出した。これで心がずぶ濡れでもバレない。雨具はあったが取り出すことなく一時間の自転車での帰宅となった。
自宅に着くとシャワーを浴びてジャージに着替える。くしゅん、くしゅん、風邪引いたかな?
案の定、翌朝は高熱が出た。
「あー風邪ひいた」
「仕方ないわね、自室で寝ていなさい」
母親の言葉に素直に寝る事にした。眺める天井は毎日見ているはずなのに、こんなにも寂しい。私は高熱の苦しみの中でかすみの事を想っていた。
これは二、三日登校できないな。
しかし、今の時代スマホがある。しおりからのメッセージが怖くて電源を切る。
これでいい。これでいい。
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