第2話 男装の理由

 小さな子供の頃から親にズボンを穿かされた。理由は簡単、男の子が欲しかったからだ。

 

 最初の頃はスカートに憧れていた。中学生になると制服のスカートが恥ずかしくなった。自然と男子の制服を着ていた。


 また、髪をショートカットにして高めの身長のおかげで王子様扱いだ。


 しかし……。


 日常は辛いモノであった。


―――。


 夢か……。


 朝起きると狭い自室であった。私の住む街は都心から離れた住宅地で、ほぼ田舎なのに一戸建ては贅沢な時代である。今日も、高校に通う為に日常が始まる。このスラックス姿は時に差別の目で見られる。この世界に平等などない。私が言うのだ、間違いはない。


『テンコン』


 うん?メッセージ?それはかすみであった。


『モーニングコールだよ』


 はいはい、返事が欲しいのね。私は適当に返事を返すと朝食にする。


「どうしたの?何時もより機嫌がいいけど」


 母親が私を見て問うてくる。


「新しい友達ができたの」

「そう、大切にしなさい。あなたは孤独になりがちだから」

「はーい」


 孤独か……今の時代、孤独な人など沢山いるので実感がない。


***


 自宅から高校まで自転車で片道が一時間の道のりである。高校生なので大変だが何とかなっていた。結果として筋肉質になり、女子からの憧れ度が増すのであった。

また、運動部ではなく書道部を選んだのもこれ以上モテるのを防止する為である。そして、日常の授業が始まり、学業に勤しむ。


 この高校は大した進学校ではないが国立のいい所に行けたらいいなと思う日々である。それから授業の合間の事である。廊下の水道水を飲んでいると。かすみが寄ってくる。


「麗葉、遊ぼ」


 女子にモテるのは慣れているがこのかすみは違っていた。最初から自分の所有物として私に接してくるのだ。運命の出会いと言えばそれまでだが、私はこのかすみに恋をしていた。


「遊ぶって何をするのだ?」

「勿論、お姫様ごっこよ」


 詳しく話を聞くと私が王子様でかすみがお姫様になり、演劇の様な遊びらしい。


「居た、居た」


 それは書道部の佐藤、鈴木、田中であった。


「三人は悪役ね」


 結果五人で演劇の様な立ち振る舞いをして終わった。休み時間の廊下で行われた一コマは目立つに目立った。


『キャー、麗葉様カッコイイ』


 私のファンから叫び声が聞こえてくる。


「はい、お終いです。佐藤、鈴木、田中はお疲れさま」


 三人は機嫌が悪くなる事なく去って行く。このお姫様ごっこはかすみの人徳があって始めて成り立つ遊びである。人徳が無ければヤジが飛んできただろう。


 しかし、目立ったなー。


 私は頭をかきながら教室に戻るのであった。


***


 夕陽と夜の闇が切り替わる時間である。私は女子の制服を着てみることにしてみた。これでも女子なので一通りは持っているのだ。スカートは地味な深緑と黒のチェックの柄で胸にはリボンが付いていた。するすると制服を着ると部屋にある姿鏡の前に立つ。


 ダメだ、完全に女装だ。


 その違和感は普段男装している訳ではなく、見た目の性別が王子様なのだ。


『テンコン』


 うん?かすみからのメッセージだ。


『女子の制服は着れた?』

『はい……』

『なら、写真を送って』


 そうなのだ、かすみの提案で女子の制服を着る事になったのだ。私は渋々、鏡に映る姿をスマホで撮ると添付画像で送る。


『これは、これで、好物だな』


 かすみは、この色気も無い、私の女子の制服姿が好きだと言う。ホント、何処の変態だと、小一時間訊問したい気分だ。私は不機嫌になり、制服を脱ぐと、下着姿で一階のトイレに向かう。


 しかし、貧乳だな。私はトイレの中で、ブラも取りパンツ一枚で自室に戻る。鏡に映った姿はたくましく思えた。


ふ~う。


 王子様として生きていくしかないのか。私は短パンにTシャツを着ると狭い部屋のベッドにダイブする。少し蒸し暑い天気には丁度いい恰好だ。


『テンコン』


 また、かすみからメッセージである。


 ぶう!!!


 それは裸の姿のかすみであった。その姿は女性らしく、美の極みであった。


 しかし、この写真をどないせいと思う。


『サービスだよ』


 続けて届くメッセージに素直に受け取る事にした。

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