ここにも注意書き*下の方見て

「ここまでうまい干し肉ははじめてです!この干し肉があれば、私は、あと30年は冒険者を続けられた!」

 え?

 あと30年?

 いや、それより、干し肉がまさか……食べたくなくて冒険者やめたの?

 そんなはずないよね?……?

 S級冒険者だったんだよね?

 そんな理由で冒険者を引退するもの?

「え?うまい?ですって?」

 リリアンヌ様があんぐりと口を開いている。

 ですよね。干し肉がうまいなんて信じられないですよね……。

「私も、はじめて干し肉を食べたときには、獣臭いというか生臭くてびっくりしたんですが、ちゃんと味を調えて作れば大丈夫なんです」

 ブライス君にもらって少し齧った干し肉の味を思い出して酸っぱいものがせりあがりそうになった。

 うん、あの時の自分、よく頑張って飲み込んだ。本当に、頑張った……。ううう。

 セバスティアンさんが熱のこもった声で訴える。

「そうです。私も冒険者時代には、お金が稼げるようになったらおいしいと言われる干し肉を高くても買う用にしていましたが……ですが、ここまでうまい干し肉ははじめてです」

 おいしいと言われる干し肉が気になる。

 塩があればよかったとか言っていたけど、塩は使うんだよね?きっと。

 香辛料は?ハーブは?どんな味付けなんだろう。

 角煮にしてから作った干し肉は、ハズレポーションの醤油とかあまり人に言えない材料で作ってある。

 角煮干し肉の補正効果は、日にちが立っているからもうないはずだから、大丈夫だけど……。

 普通に流通している材料で美味しく作れるなら知りたい。

 カーツ君が、セバスティアンさんに自慢げにもう一つ干し肉を手渡す。

「だろ、ユーリ姉ちゃんが作った干し肉美味いよなー。小腹空いたときにちょっとかじるだけで幸せな気分になるんだ」

「分かりますよ、これは幸せになる味だ」

 と、カーツ君とセバスティアンさんが頷きあっている。

「わ、分かりませんわ!私には干し肉で幸せな気分になる気持ちが!分かりません……」

「食べたら分かるよ」

 カーツ君が二カッとわらって、干し肉をリリアンヌ様に差し出した。

 リリアンヌ様は、恐る恐る自分の口に入れる。

 うん。一度あの、飲み込むのにとてつもない努力のいる干し肉食べちゃうと、美味しいって言われてもそうなりますよね。まずいからって吐き出すなんて、赤の大陸の人々を見てきたら余計にできないし。

 って、待って、魔法、魔法忘れてませんか?っていうか、そういえば途中から全然浄化も解毒もしてませんでしたね。

「リリアンヌ様、浄化と、解毒と……!」

 と声をかけるのが一歩遅く、リリアンヌ様は……。

 倒れた。

「リリアンヌ様ー!!」

「私が先に食べていましたから。毒見役になってますから大丈夫ですよ」

 大丈夫ですよってセバスティアンさんが言うけど、……、けど……!何日か小屋をあけていたし、その間にかびたりとかなんか想像しないことが起きてた可能性も……。

「はぁー、ビックリした。」

 むくりと、リリアンヌ様が起き上がる。

「これ、本当に干し肉ですの?信じられませんわ!この私が気絶するほど美味しい干し肉が世の中にあっただなんて……」

 あ、大丈夫だった。普通にいつもの気絶だった。

「この干し肉は……どうやって作るんですの?」

 ギクッ。

 ハズレポーションのことは内緒だ。リリアンヌ様には言えても、セバスティアンには言えない。やばい。

「私もぜひ知りたい」

 セバスティアンの目が輝いて……いや、ぎらついている。

「えーっと、秘伝のタレにつけて……」

 秘伝のタレなんて、鰻か!ヤキトリか!焼肉か!この世界で通じるのか……。私ってば、もう少しうまい言い訳できないのかな……。

「そう、秘伝の……それは教えていただくわけにはいきませんわね……」

 ほっ。リリアンヌ様が察してくれたのか助け舟を出してくれた。

「秘伝のタレを譲っていただくことはできませんか?」

 う、そう来たか。

「あのねー、秘密なの。ないしょなのよ」

 今度はキリカちゃんが助け舟を出してくれる。

 助けてもらってばかりじゃだめだ。

「あの、手に入りにくい材料があって、タレは大量には作れないものなので……その……。干し肉でしたらお譲りできますが」

 どれくらい角煮干し肉あったかな?また作ればいいから全部渡しても問題ないよね。

 補正値の効果が無くなってるから醤油とか使ってあっても大丈夫だろうし。

「それは本当ですの?」

 リリアンヌ様の目がキラリ。

 え?なんでリリアンヌ様が?セバスティアンさんに言ったつもりなんですが。

「それでしたら、ぜひに!」

 セバスティアンさんの目もキラリ。

 おっと、リリアンヌ様とセバスティアンさんの視線が激突する。うーん。仲良くしてね。

「んじゃ、取ってくるよ」

 カーツ君が取りに行ってくれた。

 その間に、お茶でも出そうかと思ったものの……。お茶の葉がないんですよねぇ。

「あれ?ユーリお姉ちゃん、これなぁに?」

「あら、バタバタして向こうから帰ってきたときに何か服にくっつけてきてしまったのね」

 キリカちゃんが袖口に引っかけて持ってきてしまったものをつかんだ。

「え?これ……!」

 味付け海苔1枚……板海苔を8枚切りにしたくらいの小さなかけらだけど……。ガチガチに乾燥した。

 昆布だぁ!

 昆布出汁が取れる!

 リリアンヌ様がじーっと昆布を持つ私を見ている。

 ……。お客様にお茶も出さないなんて……。ですよね。はい。分かりました。

「キリカちゃん、お湯を沸かしてくれる?」

 火の魔石であっという間にお湯は沸く。

「ブライス君、コップを準備してもらえる?」

 来客用の特別なものはないので、いつものを人数分。

 その間に私は、小さな昆布をハンノマさんの包丁でみじん切り。

 ああ、乾燥して硬い昆布でもすいすい切れる。すごいな。ハンノマさんの包丁。

 高速で動かしても指は切れないし……。

 小さなみじん切りのさらにその先!

 ミキサーが欲しいところだけど。電動ミキサーじゃなくてハンドミキサーなら作れないのかな?紐を引っ張って使うものとか、ハンドルをぐるぐる回すものとか。

 ハンノマさんにお願いすれば作ってもらえるのかな?

 ……。脳裏に泡立て鬼が浮かぶ。あれはバンさんに作ってもらったものだけど……。

 なんだろう。ハンノマさんに頼んじゃダメな気がする。

 あ、そうだ。粉にするならミキサーじゃなくてミルでいいんだよね。うん。ペッパーミルとか。石臼じゃないけど、こうこすり合わせてすりつぶす感じの……。それならハンノマさんじゃなくて……どういう職人さんに頼めばいいんだろう?いや、そもそも石臼は存在してるんだから、小さいものを頼めば……石臼職人さんいるんだよね?

 と、考え事をしながら包丁の刃先を左手で抑えながら右手で上下させてみじん切りを続ける。

「お湯沸いたのよ」

 キリカちゃんの言葉にハッとする。

 手元の昆布は、粉とまではいかないけれど、かなり粉に近い細かさにはなった。

 これでどうかなぁと首を傾げつつ。

 お湯に入れて、塩で味を調整する。

 しばらく待つと……。

 ああ、昆布の香り。お湯に薄く色もついている。

 スプーンでゆっくりとかき混ぜて、味見。

 うん。美味しい。

 コップに次ぎ分けてリリアンヌ様とセバスティアンさんに出す。

「お口に合うかわかりませんが、昆布茶です。どうぞ」

 それからキリカちゃんとブライス君にも注ぎ、まだ戻ってきてないカーツ君の分。それから最後に自分の分。

「いただきますわ」

 リリアンヌ様が口をつけようとすると、セバスティアンさんが止めた。

「リリアンヌ様、毒見をさせていただきます。それから浄化と解毒を忘れませんよう」

 ありがとう。なんだか、ありがとう。セバスティアンさん。何かあってからじゃ怖いもんね。

「では毒見を……うっ」


===========

なろうと重なる部分もありますが、修正してあるので若干違います……というのを思い出した。

そのうちちゃんと時系列に沿って1話からカクヨムに移植したい……なかなか難しい。時間的に余裕がない……(´;ω;`)ウゥゥ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る