無敵は素敵
「何年もあっていなくても関係ありませんよ。むしろ一度もあったことのない人だって、助けを求められたら助けようとする人ですよね。ローファスさんって……」
ブライス君の言葉に目の前にちらついていた主人の顔がパリンとガラスのように割れて飛び散った。
そこに現れたのは、ローファスさんの笑顔だ。
冷たくなった胸が温かくなった。
ああそうだ。
ローファスさんは主人とは違う。
……リリアンヌ様とはきっと思いあっていても結ばれない障害でもあるんじゃないだろうか。
そして、忘れようといろいろな女性と付き合ってみたものの、忘れられなくて誰とも結婚できないでいるとか。
うん、そっちの方がしっくりくる。
というか、二人はどんな関係なのだろう。セバスティアンさんもローファスさんのことを知っているみたいだし。あ、それは元冒険者として知っているだけ?
うーん。
「そうね。ローファスはそういう人間だったわね……っと、とにかくよ。誰かを人質にしないということを聞かせられないと考えたっていうことは、つまり、弱いからよ。だから、護衛は必要ないわ。そもそも、もうローファスはねらわれないし、同じようなことは起きない。そのために、あれがあるんだから」
そうですね。赤の大陸からカカオ豆を輸入して、食料を輸出するようになれば。シャーグの国の人たちが助かる。いくら、私が今まで食べてこなかったものが食べられると教えたとしても、イカやわかめじゃ多少足しになるくらいだろう。それに海洋資源も取りすぎはまずい。脂身やトウモロコシはもともと食べていたものの食べ方を変えただけで食料は増えないし。骨も味の話だ。多少栄養素が出て栄養改善にはなるにしても……。
やはり根本的に穀物などの食料が必要だろう。それが貿易で手に入るようになれば、他国を侵略しようという動機である、国民を飢えから救うためという理由がなくなる。
……しかし、いったいその赤の大陸はどこにあるんだろう。転移魔法以外で、今まで交流はなかったのかな?
んーと考える。船で行き来できる距離にないのか。この世界で作られる船はどれくらいの距離を移動できるのか。
地球だと、新大陸発見だとか大航海時代だとかは確か15世紀。この世界は中世っぽい感じだ。中世は5世紀から15世紀だっけ?となると、中世後期になってから世界一周が可能となるような船が出てくるということ?
うーん、あまり歴史の勉強を真面目にしていたわけじゃないからよく分からない。でも、だとすると、まだあまり遠くへ行ける船はない。もしくは遠くへ行こうとしていないということかな。
この国の裏側にある大陸だったら、とてもじゃないけど簡単には行けないよね。
……知らないことばかりだな。この国での世界地図はどうなっているんだろう。天動説なのか地動説なのかも分からない。……って、まぁ、生活していくうえでは必要のないことだけど。
「これは、何なのです?」
セバスティアンが馬車のドアをしっかり閉めながら訪ねた。
「ふふ、驚くわよ。私じゃなくても気絶すると思うわ。そうね、食べ物会のダイヤモンドかしら?」
「ダイヤモンドほどの価値があるものですか。それは気を引き締めて届けなくてはなりませんね。……ですが、リリアンヌ様の護衛も手を抜くことができません。リリアンヌ様も荷物と一緒に移動をお願いできますか?馬車を手配いたしますので」
リリアンヌ様がセバスティアンの言葉に、小さくため息をつく。
「そうですわね。仕方がありませんわ。私も屋敷に戻ります。カカオ豆の件も進めなくてはいけませんし」
「では、さっそくこの荷物を引く馬と、リリアンヌ様が乗る馬車、護衛などの手配を、ああ、でもリリアンヌ様のおそばを離れるのは……またどのような危険があるやもしれません。ひとまず安全な場所まで移動していただいて」
「大丈夫なのに。ねぇ?あれとかあれがあれば、結構私たち無敵じゃない?」
あれとかあれって何でしょうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます