そんな人なの?

「あのね、セバスティアン」

 リリアンヌ様がすかさず補足説明をする。

「私、何度、気絶したと思う?」

「まさか、リリアンヌ様を誘拐したやつは……リリアンヌ様に……」

 あ。違う、気絶させたの、主に私。誘拐したやつじゃない。

 セバスティアンさんがぬぬぬとうなっている。

 濡れ衣。リリアンヌ様を拷問して気絶させたとかそんなんじゃなくて、なくて……。

「おいしい物を食べさせたくてさらったと……なんてことだ!」

「違うわよ。狙いはローファスの命だったわ」

 セバスティアンさんが険しい顔になった。

「ローファスの……。S級冒険者の命を狙うというのは、一体何が目的なのです」

 リリアンヌ様が手短に答える。

「どうも、クラーケン討伐をしたことで邪魔に思ったみたいよ」

「なぜ?モンスターを討伐してくれる存在は欲しいと思えど邪魔には思わないのでは?」

 ああ、それはね。そのモンスターで街を壊滅させようとしたけどローファスさんが討伐しちゃったから……なんて、言えるわけないですよね。

 下手したら戦争案件ですし。

「まぁそれは解決したのよ。いえ、解決するために、これを持って帰ってきたの」

 リリアンヌ様が馬車に詰め込まれたカカオ豆を指し示す。

「その荷物は?」

「大切なものよ。屋敷に届けてくれる?」

 リリアンヌ様の言葉に、セバスティアンさんが頷いた。

「手配しましょう。それで、ローファスの警護は」

「必要ないわ。もう、命を狙われることはないから。というか、私を人質にして言うことを聞かせようなんて馬鹿なことを考えたわよね」

 リリアンヌ様は遠くを見た。

「はい。リリアンヌ様は、ローファスさんに危険にするようなことは決してしようとしませんでした」

 手紙は絶対書かないと言ってずっと突っぱねていましたし。よほどローファスさんのことが大切なんですよね。

「ふふ、そうじゃないわ。もうローファスとは何年も会ってないのに。人質ならもっと身近な人にすればよかったのに……」

 ちょっと悲しそうな顔をリリアンヌ様が見せる。

 え?どういうこと?

 婚約者だけど、顔を合わせてないとかそういうことかな?政略結婚とか?リリアンヌ様はローファスさんのことを大切に思っているけど、ローファスさんの方はリリアンヌ様のことを大事にしてないとか?

 え?だって、サーガさんとの会話で、なんかいろいろな人と付き合ったけど結婚しないみたいなこと言ってたような……。婚約者がいるのに?

 いえ、主人は結婚していたけれど不倫をしていたのだから……

 ぞくりと心臓が冷たくなる。

 主人とローファスさんの顔が重なるようにちらちらとして。


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