帰還したよ

*ユーリ視点に戻ります*



 ぱぁーと馬車が光に包まれたかと思うと妙な浮遊感。

 体感で数秒。

 体の中でアルミホイルをくしゃくしゃにしているような……チョコレートの銀紙を間違えて噛んでしまったような不快感を感じた。くすぐったいわけではないし、吐きそうになるわけではないし、こう……何とも言えない感じ。

 数秒で終わってよかった。

 光が収まると、浮遊感もなくなる。

「転移が終わったみたいですね」

 ブライス君の言葉に、カーツ君がすかさずドアを開いて外に飛び出す。というより、無理にぎゅーっと詰められていた状態なので、はじき出された。

 続いて、キリカちゃんブライス君、私、リリアンヌ様も馬車の外へ。

 むはー。息ができる。

 無理やり入っていた馬車の中。リリアンヌ様のお胸が顔にあって息ができなかったもの。

 数秒で終わって本当に良かった。

「ここ、どこだ?」

 カーツ君の言葉に、深呼吸していた私も、周りに目を向けた。

「あら?屋敷に転移したわけじゃないのですわね?」

 目に映る景色は、森の中の道。

 目印になるような特徴はない。

 すると、ものすごい勢いで森の中から何者かが飛び出してきた。

「誰だっ!」

 ブライス君が警戒していつでも魔法を放てるように構えた。

「リリアンヌ様!ご無事でっ!」

 人影はリリアンヌ様の前で膝をついた。

「あ、セバスティアンさんなのよ。ただいまなのー!」

 キリカちゃんが人物の顔を見て声をあげた。

「ただいま、セバスティアン、ここはどこかしら?あなたがいるということは、国に戻ってきたのは間違いないのよね」

 え?セバスティアンさん?

 顔を見ると、確かにそうだ。

 ……でも、あまりにも雰囲気が違う。前に見たときは執事さんといった服装をしていたけれど……。今の服装は冒険者。ローファスさんよりも重装備な冒険者のようだ。

「ところでセバスティアン、その服装、冒険者に戻ったのかしら?」

 リリアンヌ様も服装の違いを疑問に思ったようだ。

「何をおっしゃいます。私はすでに冒険者を引退した身。冒険者に戻ることなどありませぬ。なれど、リリアンヌ様の危機に手をこまねくわけにはまいりません。昔取った杵柄。敵を倒す力となれればと……。リリアンヌ様、敵はどこです?私めが微力ながら」

 セバスティアンさんの言葉に、キリカちゃんが答えた。

「あのね、敵はいないのよー。おっきなドラゴンタートはびゅーんしたし、えっとね、ちっちゃなのはカカオ豆だすから敵じゃないのよ。それからね、みんなでトゲトゲのウニ食べておいしかったのよ」

 セバスティアンさんがキリカちゃんの説明に首を傾げた。

 うん。私たちには分かるけれど、分からないですよね。

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