次いってみよう!

「あと、あの取り出したワタも、塩辛にして食べたりするのですが」

 女性が驚きの声をあげた。

「えっ?これも食べられるんですか?魚の内臓を食べないのと同じように捨てるしかないと思っていました」

 ですよね。普通は捨てると思いますよね。

「えーっと、塩辛を作るにはちょっと技術が必要なので……教えられなくて」

 作り方は知っているけれど、生だ。刺身文化で育った日本人ならば、鮮度に気を付けることや、衛生面に気を付けることなどは身に染みて分かっている。だけど、刺身文化になじみのない人たちが調理して食べることを考えると、生は危ない。食べたことあるから大丈夫と見様見真似で口にしていいものじゃない。

 腐ったイカの塩辛と、食べても大丈夫なイカの塩辛の見わけもつかないだろうし。

「残念ながら、ゴミにするしかありません」

「残念なんて、今までは少しも食べられなかったイカが、こんなにおいしく食べられるようになるだけでも」

「そうです。硬くなったパンも、肉の脂身も……。こんなものしか食べる物がないなんてと思っていた自分たちが恥ずかしいです」

 しんみりした雰囲気になってしまった。

「あの、ほら、揚げ物してみてください。温度が高すぎても低すぎてもうまく上がらないんですよ。それと油は跳ねるので気を付けて。勢いよく入れると危険ですし、練習してください」

 女性たちに声をかけると、そうでしたと、さっそくイカリングに取り掛かった。

「あの、食べられないものを持ってきました。……ですが、流石にこれは本当に食べられませんよね」

 一人が運んできたのは、骨だ。

「肉が少しでも残っていればまだしも、骨だけは流石になかろう」

 シャーグの言葉に、待ったをかける。

「これだけ綺麗に肉が残っていなければ処理が簡単で助かるわ」

 私の言葉に視線が集中した。

「骨も、食べられるのか?」

「いえ、流石に骨は食べません。あ、軟骨なら食べますし、魚の骨せんべいとか骨によっては食べるものもあります。それから、骨を粉末にして練りこんだハンバーグなんかも、カルシウム不足を補うのに役立っているとか聞いたこともあります」

 リリアンヌ様が骨を見た。

「そういえば、犬は美味しそうに骨を口にくわえてますわよね?骨って、おいしいということですわよね?粉……小麦粉みたいにすればいいということかしら?」

「いえ、その、基本的に私の住んでいたところでも骨を粉にして食べるのは一般的じゃなかったんです……」

 牛に与えて狂牛病になったとか問題もあったし。

 食料用に売っていた骨粉がどのような加工がされていたかも分からないし。いい加減なことは言えない。

「粉にしたものを畑にまいて肥料にすることの方が有名で……」

 リリアンヌ様ががっかりしている。

「骨は食べないけど、料理には使うんだよな!あれだろう?ユーリねえちゃん!」

「キリカ手伝うね!」

 カーツ君とキリカちゃんは慣れたものだ。

「じゃあお願いね」

「え?ええ?あの、私にも手伝わせてください」

 骨を持ってきた女性がカーツ君とキリカちゃんについていく。

 豚骨スープ、牛骨スープ、……あの骨が何の骨かわからないから、何スープになるんだろう。

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