土下座するシャーグ
「蛸?」
「クラーケンを小さくしたような姿の、うねうねして足が8本の海にいる生き物です」
シャーグが知っているかとミギルの顔を見た。
ミギルがうんと頷く。
「海中の岩場で見かけるアレでしょう。近づくと墨をかけられたり、ぐるりと巻き付いて引きはがそうとすると皮膚が引っ張られ真っ赤になる。なるべく近づかないようにと注意しても岩に擬態していて被害にあう者がいる」
うん。その特徴は間違いなくタコですね。
「その生き物ですが、私の住んでいた場所ではタコと呼ばれていて、おいしいんです」
私の言葉に、左側の兵(名前なんでしたっけ?)が声をあげた。
「あの、おぞましい姿の生きものがか?」
シャーグがすぐに言葉を続ける。
「すぐにとって来い!」
シャーグの言葉に兵が駆けだした。
「なぁ、ユーリ姉ちゃん、そのクラーケンににてるタコって生き物、似てるのは姿だけか?味も似てるのか?」
カーツ君の言葉に、クラーケンの味を思い出す。唐揚げのしたものは、蛸の唐揚げと変わらなかった。
「うん。ほとんど変わらないと思う。吸盤までは流石にちょっと分からないけれど……」
クラーケンは足を食べたけれど、吸盤の部分の部分を食べたわけじゃないものね。
「また、食べられるんだ。トマトとバシルとクラーケンのサラダもうまかった。クラーケンの寿司もうまかった。クラーケンの唐揚げも。それからクラーケンと大根を煮たやつも……それから……」
よく覚えてますね。私は何を作ったのか寿司と唐揚げは覚えていたけど。他は忘れてたのに。
カーツ君が思い出してよだれをたらしそうな顔をしている。
「ユーリちゃん、大丈夫ですわ」
リリアンヌ様がキリリと表情を引き締めた。
そして親指を立ててグッな手つきで、笑顔を見せる。
「何度気絶してもいいように、柔らかいクッションを準備して臨みますわ」
ちょっと、大丈夫じゃないですっ!
「本当に、クラーケンに似たゲテモノはうまいのか?」
シャーグの言葉にリリアンヌ様がにらみつけた。
「ユーリちゃんを疑うんですの?美味しいに決まっているじゃない!忘れたとは言わせないわ。あなたが私たちに何を渡したか思い出しなさい。パンだけ、ジャガイモだけ、まずい麦、それから生ごみ……そのすべてをユーリちゃんが料理したら美味しい食事になったのよ?忘れたとは言わせませんわ!」
シャーグが力ない声を出した。
「ああ、忘れるはずはない。我が国はドラゴンタートのせいで苦しんでいると。実り豊かな青の大陸をうらやむばかりで……。青の大陸のリリアンヌ殿たちには絶望的であろう粗末な食事を与えたつもりだった。それが……どれもおいしく料理して食べているのを見た。今も、誰も食べようとも思わなかったクラーケンが食べられると言う……」
再びシャーグが土下座する。
「頼む、教えてくれ。いや、教えてください。カカオ豆やタコ、それ以外にも食べられる物が我が国にもまだあるのならば……何が食べられて、どのようにして食べればよいのか。ユーリ殿……」
しゃがんでシャーグの肩に手を置く。
「頭をあげてください。もちろん、私が知っていることはいくらでも教えます。私も、美味しい物が食べたいですから。カカオ豆もそうですけど、タコもエビもカニもウニもイクラも昆布もわかめも海苔も海の幸は大好きなんです!今はあまり時間がありませんが、青の大陸と通信鏡で連絡が取れるようになれば、いろいろな物を通信鏡に映してもらえば説明します。あ、そうだ。生き物じゃなければあまり魔力を使わずに転送できるんですよね?だったら、レシピを書いた手紙も送れますよね?」
リリアンヌ様が私が手を置いたのとは逆のハーグの肩をつかんだ。
ぐわんぐわんとゆする。
「生きてなければ簡単に遅れるのよね?今、ユーリちゃんが言った、タコのほかに、エビとかカニとかウニとかいくらとか昆布とかわかめとか海苔とか、送れるわよね?」
シャーグがぐわんぐわんとされながらこくこくこくと頷く。
お、おお!青の大陸で海産物がいっぱい流通するようになるの!
やった!ビバ転移魔法陣!
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