3.5 本編やっと始まるよー
「まだつめるのよ!」
キリカちゃんが馬車に荷物を押し込んでいる。
ダンジョンで収穫したハズレポーションと、今も皆がコツコツと集めてくれているカカオ豆だ。
ドラゴンタートを無事に倒した後、私たちを青の大陸に転移させるためにまた魔力を貯め始めた。
どうやらまる1日半はかかるそうなので……。
「その間に取れるだけカカオ豆を集めるわよ!」
リリアンヌ様の一声でダンジョンに逆戻り。
「いやいや、それは部下にやらせますから……お詫びとお礼に食事会でも……」
シャーグが平身低頭謝っている。
……まあ、あれだけのことをしたのだ。許せるか許せないかで言えば……。
犠牲者がいなかったので許せるけれど。もし犠牲者がたくさん出ていたら許せなかった。
……そっか。
犠牲者はいなかったんだ。それに……。
赤の大陸……この国の人たちはドラゴンタートのせいで作物の育たない大地が増えて食べる物に困っている。
年寄りがまるで姥捨て山に捨てられるかのように、船にのって海に出るなんて……。
「結構よ。この国のご馳走なんて知れてるでしょ?」
リリアンヌ様がシャーグの食事会への誘いを一刀両断断った。
そうですよね。食べる物に困っている人々を差し置いてご馳走してもらうなんて、とてもできないですよね……。
リリアンヌ様がシャーグに向けて指を突き出した。
「私を気絶させられる料理を用意できますの?」
え?
気絶させる料理って……リリアンヌ様……、言ってることが……。
普通は人を気絶させちゃだめだと思うんです……。
「うっ」
シャーグが言葉に詰まった。
「ユーリちゃんを超える料理が用意できるとでも?」
リリアンヌ様が私の肩を抱いた。
ええええ!ちょ、待ってください。
「そ……そうじゃ。我が国は食材が乏しいだけでなくろくな料理も準備できぬ……負けじゃ。我が国の敗北じゃ」
シャーグが膝をついた。
「そうよ!ユーリちゃんの圧勝よ!」
ひぃー!待ってください!
私がシャーグの国に圧勝するとか一体何の話なんですか!
わ、わ、わ、私、ただの冒険者見習いですよ。
「そうだぞ!俺たちの国だって、負けてるんだ。ユーリ姉ちゃんの勝ちだぞ!」
ちょ、カーツ君、そうじゃないよ。そういうことじゃ……。
「そうですわ。シャーグ。この国が敗北するんじゃないのです。我が国とてユーリちゃんには勝てません」
リリアンヌ様がどや顔をしているけれど……。
ちょ、シャーグの後ろでミギルさんたちが頷いているけど。
「まずい麦ですら、あのように美味しくしてしまうですから」
まずい麦じゃなくて、米ですってば。
「あの、私がすごいんじゃないんです。私の国では普通にそうやって食べてて、まずい麦は米と呼ばれていたのですが、私の国では麦があまり栽培されてなくて、米を使うのが当たり前で……」
シャーグがうんと頷く。
「では、ユーリ殿の国がすごいのじゃな……それに比べて我が国は。食べる物がないと分かっているのにあるものを工夫して食べようともしてこなかったのだ……」
そういえば、世界中で飢饉のようなことは起きているだろう。
けど、日本ほどいろいろな物を食べるようになった国は少ないんじゃないだろうか?
よく言われるのはこんにゃく。アクが強くて食べられない芋を、灰を入れた水の灰汁でアク抜きするなんて。
どこで誰が考えたのか。そのうえ、茹でて潰して練って練って茹でてと非常に手間がかかる。
出来上がったこんにゃくはほぼ味はないしカロリーもないという。
フグも、死ぬことがあるというのに「毒のある部分を取り除けば平気平気」と食べるし。
いや、それはジャガイモと同じ?ジャガイモも皮や芽を取って他の国でも食べるし。ああでも死ぬことはないか。ちょっとお腹が痛くなるようなものだっけ。
……命がけでフグを食べようとする日本人はやはり特殊すぎません?
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