第15話 魔法使いの誇り

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「あなたの黒魔法は、5、6人の仲間がいる時には強力な力と効果を発揮する事ができる。

前衛を守る盾となる仲間たちがいる場合よ。

でも今は私たち2人しかいない。

私1人ではどうしても襲い来る魔物を撃ち漏らしてしまう。

そうなればあなたは自分自身で身を守らなければならない。

ウィザード・ソード。このアイテムはそこまで高級な魔法具ではないし、性能がいいわけでもない。

けれども魔導力を変換して力に変える事ができるわ。

この武器があれば、後方支援・遠距離攻撃専門の魔法使いであるあなたでも接近する魔物を撃退する事ができる。

襲い来る敵をその剣で迎え撃つの。」

「 嫌よ。魔導杖とは魔法使いにとっての魂だわ。この杖には我がアインクラッド家の血と汗と生命が宿っている。

そして、私の姉から貰った大切な宝具よ!!

この杖を手放す時は私が死ぬ時だけだわ。

尊敬する姉から受け継いだ、魔法使いとしての誇りを失ってまで、私は生きようとは思わない」

メノウは私のした提案を一応理解してくれたらしい。

ただの思いつきで言ってる訳ではないことを。

だが、貴族である高貴な血統の彼女には私のような庶民には解らない謎のこだわりとプライドがあるようだ。

そして、姉の事を特別に思ってるらしい。

しかし、今はそんな事を言っている時ではないのだ。

「 お願い、聞いて。メノウ。私たちは、生き延びなければならないの。

そしてエレスたちを、パーティーメンバーたちを救わなければならない。

あなたの言う魔法使いの誇りとは何?

それはその杖や指輪の事なの?

魔法具や精錬されたアイテムの事?

私たち冒険者の誇りとは、仲間を思いやる気持ちや人々を救いたいという強い意思じゃないの?」

メノウは少し考え込み、左下の地面を見つめる。

生前の姉の生き方を思い出したのだろう。

「言いたい事はわかったけど、私は、私の一族は代々魔法使いの家系なのよ。

呪文を唱えられても剣なんて使えっこないわ。」

「人は自分の未来を切り開くために、過去

と決別しなければならない事もあるの。

新しい事に挑戦しなけばならない時もあるのよ。

私があなたを守るわ。だからお願い、あなたも私に力を貸して」

私は、過去の自分と決別できたのだろうか?

いや、今でも私は、転生前の後悔を引きずって生きているのではないのだろうか?

メノウは少しうつむいたまま、考え込み、剣を受け取る。

「そうね、こうなったのはあなたのせいだもの。あなたに責任をとってもらうわ」

  

「ウィザードソードよ!!我が魔力を糧にして、灼熱の炎を灯せ!!」

メノウは呪文を詠唱すると、魔法剣で敵を切り裂く。

 ウィザードソードがメノウの魔力をエネルギーに変えてくれる。

そして、パワーを与えてくれる。

炎などの魔法剣の効果以外にも、魔力をパワーに変える事ができるのだ。

 「だいぶ慣れてきたわね。

左右袈裟斬り。この2種類の技だけをマスターできたら、後はなんとかなるわ。」

袈裟斬りとは、上段から斜め下に切り下ろす剣技の事である。

 剣道3段の私が彼女に教えた、剣技の中でも最も基本的な技である。

 そして、剣を振るのに1番人体の構造に適した切り方でもある。

 時間がないのでこの斜め切りだけをひたすら練習してもらう。


「ウィザードソード。我が分身よ!!冷気の剣で敵を凍てつかせよ」

メノウは炎の魔法剣に続いて、氷の魔法剣を発動させた。

  さすが魔法使い。

魔法剣の習得速度も早い。

「さすが名家のエリート魔法使いだわ。魔法剣の習得も速いのね 」

 メノウは私の言葉を聞き流してイエロースライムを斬って凍らせた。

 私は空を飛ぶ巨大な蝶々、キングバタフライにナイフを投げつける。

 キングバタフライはレッドやブルーバタフライと違って、より体が巨大で防御力も高い。

 ナイフが一本刺さったくらいではたいしたダメージにはならない。

 私はアイテムボックスから数十本ものナイフを山のように取り出し、次々と投げつける。

 バタフライの羽根にザクザクささり、少しバタフライがふらつき下降し始める。

 私はボックスからムチを取り出し近くの木の枝に巻き付けると、そのバネのような反動で跳躍する。

 そしてアイテムボックスから剣を取り出しその剣でバタフライを斬りつける。

 バタフライから血が噴出し、私が地面に着地した直後落下した。

 「ふうっ、魔法が使えないと大変だわね。あんなの、遠距離魔法の1つや2つ発射すれば簡単に撃墜できるのに。ほんと、お気の毒様 」

メノウが呆れたように言った。

 「いったい誰のせいでほかの魔法が使えないと思ってるの? 」

 私は今3つの魔法具をつけている。

そのうちの2つは身体能力強化の腕輪、スピリトゥス・ブレスレットである。

スピリトゥス・ブレスレットは、付与術と呼ばれる身体能力や肉体を強化する魔法を使う事ができる。

リングのうち、1つは私自身の身体能力を高めるために装備している。

そしてもう1つは、メノウの身体能力を強化するためである。

 3つしか使えない貴重な魔法具だが、今は弱者であるメノウの安全を守る事が第1である。

「使えるっていってもせいぜい2つか3つでしょう。それも魔法具をつかって。バカバカしい」

「エレスと同じこと言うのね?」

「エレス。あのお姫様にずいぶんご執心なのね? 」

「エレスは私の最初のパーティーメンバーにして最高のパートナーよ」

「そう」

「彼女とは、冒険の大半をずっと2人で過ごしてきたわ」

「あなたの特別な人なのね」

そういってメノウはそっと一息つく。

「そう言えば、私も冒険者になって最初の頃はずっとお姉様と2人でパーティーを組んでいたわ。いろいろと教えてもらっていた。こんなふうに、誰かと2人きりで冒険するなんて、ほんと久しぶりだわ」

そう行ってメノウは遠くの空を眺めていた。

きっと姉との思い出に浸っているのだろう。


そうこう話していると、巨大な炎属性を持つトカゲのモンスター、サラマンダーがやってきた。

 サラマンダーはジャンプすると、炎の塊を発射する。

 「アイテムボックス」

 私はボックスの扉である異次元空間を開く。

 その空間の中から、ブルースライムが飛び出して来た。

 私はブルースライムをアイテムボックスの中に収納していたのだ。

そして私は、紅いペンダントを握りしめ、スライムに魔法をかける。

 ピピィィイイイイー

 ブルースライムは口から水鉄砲を発射させると、

炎の塊を蒸発させてしまう。

  

 私が今装備している3つめ魔法具は、魔物や敵などを操る魔法具、操り人形のペンダントである。

操り人形のペンダントは、魔物を操る魔法、マニピュレイトを使う事ができる。

 マニピュレイトは、魔物などの意識にアクセスする事により操る事ができる。

 敵が魔法効果に対して抵抗してくるので、基本魔法耐久性の弱い魔物にしか使えない。

 さらに今度はアイテムボックスから紅い巨大兎のレッドラビットが飛び出して来る。

 私はレッドラビットを操ると、サラマンダーの頭に飛び蹴りを喰らわせる。

 サラマンダーの頭にヒットした蹴りで、サラマンダーが脳震盪を起こしてふらつく。

 「 アクセス!! 」

そう言うと私はサラマンダーの意識に自分の意識を接続し、サラマンダーを操る。

 そして、今度はサラマンダーをボックスに収納する。

 ラビットとスライムも回収すると、私は一息つく。

 「凄いレアなアイテムを持ってるのね?」

メノウが感心した。

「そう?」

私が3つ目の魔法具に操り人形の魔法具を選んだのは、様々な応用が効くからだ。

 使える魔法は敵を操る。

 これだけだが、複数の魔物を操れるため、その魔物の特性を生かして炎や水などの様々な魔法や攻撃が使える。

 弱点は基本レベルの低い魔物しか操れないため、どうしても攻撃力が低い。

 だから使い方や敵との相性を考えて使わなければならない。

「アイテムを使って魔法を使うなんて、私たち魔法使いの名家からしてみたら邪道だわ 」

メノウが嫌な事を言う。


その後、私たちは、魔物を倒しながらダンジョンを突き進んでいった。

途中何匹か魔物の意識を乗取ってアイテムボックスに放り込んでいった。

 しばらくすると、草原の中に森があった。

 「行ってみましょう」

私はそう言うと森の中に入っていく。

 「 待ちなさい!!どんな危険な魔物がいるかもわからないのよ!! 」

 「 でも操れる魔物がいるかもしれない」

私はメノウを無視して進んでいく。

「 ちょっと!!マリー!!勝手に何でも自分で決めないで!!」

 そして、森の中には、再び草原がひろがっていた。

 そしてそこにいたのは、羊と猫を足したような動物たちだった。

 白くてフワフワとした動物たちだ。

 ムシャムシャと草食べてる。

 「 どうやら魔物ではなさそうね。引き返すわよ 」

「キャー!!」

「 えっ!?」

突然メノウが、瞳をキラキラと輝かせて黄色い声をあげた。

そして、森から飛び出したかと思うと走り出して動物の一匹に抱きついた。

「メ、メノウ? 」

そして、草を食べているその動物に頬をスリスリさせて大喜びしている。

「ちょ、ちょっと、メノウ、どうしたの?」

「 いやーん!!モフモフ可愛い ❤」

メニャー

「ねえ聞いた?メニャーだって?なんて変な鳴き声をだすの!? 」

変だとかいいながらメノウはメッチャ嬉しそうだ。

変なのは彼女だ。

猫羊、いやモフモフたちは人懐っこい習性を持つらしい。

次々とメノウのところに集まって来てメノウの頬や体をペロペロと舐め始めた。

 メノウのところに群がってくる。

「キャーくすぐったい!! あっ、ちょっと、駄目。何してるの?マリー、助けなさい!!」

そうして、メノウはモフモフの中へと埋もれていった。


猫などの小動物が大好きな女の子は多数いるが、彼女は異常だった。

 かくゆう私もモフモフは大好きだし、休日になれば猫カフェやファンシーグッズ店には足繁くかよっていたが、彼女は異常だった。

 メノウはモフモフを見ると興奮する異常性モフモフ愛好家だった。

 プライドの高い名家の優等生の隠された闇の?部分を垣間見た気がした。

  

 



 

 


 



  



 

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