第12話 最前線

 jwtvOdk3

 次の日の午前、私は暇を持て余していた。

 エレスはこの国の将校の一人と話があるとかで出かけている。

 私はしょうがないので、剣の訓練をしていた。

 1人で何度も、素振りをする。

 すると、

「マリー。マリー・キャンベル。」

 後ろを振り返ると、カインがいた。

「いい、動きをしている。

 滑らかで、自然で無理のない動きだ。」

「ありがとう。あなたこそ、昨日のあの魔物を一刀両断した魔法剣、素晴らしかったわ。

 カイン王子様。」

「カインでいいよ。」

 カインがゆっくり近づいてきた。

「君とは2人で、1度話をしてみたいと思っていたんだ。

 あのエレナにできた、はじめての親友だからね。

 エレスが本気で心を開くなんて、どんな女性なのか凄い気になる。」

「あなたこそ、エレスとはなかなかいい関係なんじゃないの?」

「そうでもないよ。

 幼い頃の僕は弱虫で、剣の腕も魔法も落ちこぼれだった。

 そんな僕を、エレナは、励ましてくれたんだ。

 剣の使い方も教えてくれた。

 僕は彼女の期待に答えようと、彼女に認められるため、人の何倍も必至に努力したんだ。」

「そう。」

「そして、僕は人並みより強くなった。

 強くなれたはずだった。

 でも結局、彼女は僕には心を開いてもらえなかった。

 君とは、どこが違うのかなって。」

「それはー」

 私は口を閉ざした。

 エレスが彼に心を開かなかった理由が、なんとなくわかった。

 今のエレスは、あの頃の故郷の王国が滅亡する前の彼女とは違うのだ。

 今の彼女は、亡国のお姫様のエレナではなく、1人の冒険者、エレス・フランデルなのだ。

 もう、彼と彼女では、住む世界そのものが違うのだ。

 けして報われない恋。

 私はカイン王子に、同情した。

「 エレスもあれから、いろいろたいへんだったんです。

 今は彼女の事を、そっと見守っていてあげてください。」

 私は本心を隠した。



「ギランダム帝国が侵攻してきた?」

「ええ、この街にやって来てから、まだ1月もたってないけど。

 早速奴らと戦う機会が訪れたわ。」

 もう少し、時間が欲しかった。

 できるなら、エレスに帝国との戦いや、故郷の奪還を思いとどまって欲しい。

 帝国との戦いは、カインやチェンバレンの軍隊に任せて、エレスには自分の安定と幸福を選んで欲しかった。

 だが、それは難しいだろう。

 故郷の市民たちを見捨てて、自分だけが幸せにはなれない。

 それは、私が良くわかっている。

 前世で親友を失った私には、もう過去に戻って彼女を救う事はできないが、それでもこの世界の親友、エレスを護ることができれば、自分も救われる気がする。    

 彼女が戦う理由と私が戦う理由とは、ある意味同じなのだ。


 この国の騎士王子であるカインは、王国の後継者でありながら、自身で先陣を切り魔物たちと戦う魔法剣士でもある。

 先の巨人のように、外壁を破壊して侵入してきた魔物や、その魔物たちの巣窟であるダンジョンの攻略にも、自身が指揮をとり、守護戦士たちを鼓舞して戦うまさに聖戦士である。

 当然国民たちの支持は厚く、敬愛されている。

 これは、エレスには内密だが、貴族階級たちの、エレスを帝国に差し出す事と引き換えにした和平への交渉案も、断固として拒絶し、そして自らの意思と決断で、帝国との戦争に踏み切ったらしい。 

 彼も、命をかけているのだ。

 もし彼が、エレスと同じ冒険者の立場なら、一般人の立場であれば、私はエレスと彼の婚約を祝福していたかもしれない。

 でも、そういう問題ではないのだ。

 エレスは、私が認めればカインと結ばれるとか、そういう問題ではない。

 エレスは、私が認めようが認めまいが、もうすでに、1人の戦士として、冒険者として生きていく道を選んだのだから。


 エレスは、もと王族の特権やカインの庇護の元に得られる特権階級の立場を拒否し、1人の兵士として戦う道を選んだ。 

 彼女が与えられた階級は、いや、選択した部隊名は、上級聖騎士遊撃部隊てある。


 上級聖騎士遊撃部隊とは、その名の通り優秀な騎士や魔法使いなどにのみ与えられる特殊部隊である。

 城や街を守護する大規模な防衛隊などとは違い、比較的少人数での、敵への強襲や撹乱、内部への侵入による奇襲などの、特殊な任務が主流である。 

 危険ではあるが、この1年、ほとんど1人で戦ってきた彼女に最も向いている任務である。

  

 それは彼女が自ら志願したものだった。

 カインが珍しく、感情を現して反対したが、エレスの硬い意思は、誰にも砕けない。

 私も、もしエレスのパーティーメンバーとして数カ月を共に戦わなければ、カインと同じく猛反対しただろう。

 でも、それはどうにもならないのだ。

 私にできることは、エレスという孤高の戦士に寄り添い、共に一緒にいて、彼女の命を守り抜くことだけ。         

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る