第11話 騎士王子
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私たちはテングレムの森を抜けて、エルザムの草原に出た。
いよいよ目的地、チェンバレンの王国だ。
「いい事、あなたたち、エレスがお姫様だという事は絶対に内緒よ。
特に、アベルさんには黙っておくのよ。」
アベルさんに言ってしまうと、酔った勢いで全て話してしまいかねない。
「まったく、あの人には本当、困ったものよね。」
「それはあなたでしょう。
何勝手にこの娘たちに話してるのよ。」
エレスが私の腕を捻り上げる。
「だって、一応フィルたちにも、何かあった時の対応はしてもらわないといけないから。」
「本当にもう、あなたにはあきれてものも言えないわ。」
この言葉を、もう何回聞いたのだろう。
私はこの娘たちを連れてきたのは、彼女たちの訓練と、戦力を増やしてより安全に森を抜けるため。
でも、もう1つ理由があった。
彼女たちを、いずれはこの街に招き入れる。
そして、エレスと私の仲間、パーティーメンバーになってもらう。
今日はこの布石だ。
拠点が変わっても、何も変わらない。
彼女の故郷の王国、リバンドン王国を救済し、取り戻した後、私は彼女に王姫を辞退してもらう。
そして、彼女には引き続き私のパーティーメンバーに戻ってきてもらう。
彼女には、窮屈な王宮暮らしなど似合わない。
自由に羽ばたく、鳥になってもらう。
彼女は、冒険者としてのエレスが似合っているのだ。
それは、ともに数ヶ月を過ごした私にしかわからないことだ。
この時の私は、すべてが上手くいくと思っていた。
私は、大きな思い違いをしていたのだ。
この世界は、ゲームとそっくりの世界であって、けしてゲームなどではないということに。
チェンバレン王国に到着した。
チェンバレン王国は美しい、色彩豊かな宮殿や建物が建ち並ぶ先進国だ。
フィルたちは、迎えにきたアベルさんたちに引き取られていった。
テングレンの森を通ったのは、国境に検問を敷く帝国軍の網の目をかいくぐるためだったので、アベルさんたちには普通にここまで旅してきてもらう。
フィルが泣きながらアベルさんたちに連れて行かれた。
私たちと離れたくないそうだ。
だいぶ懐かれてしまったな。
そして、私たち2人は、宮殿へと向かっていった。
ズドーン
突然、東の方向から大爆発が起きた。
何!?
キシィィアアア!!
そして、魔物の咆哮がする。
「行きましょう!!」
エレスが長剣を抜いて、走っていく。
私も連れてってくれることが、少し嬉しかった。
私はエレスの後を追いかける。
街の広場で、魔物が暴れていた。
サイクロプスという、1つ目の巨大な岩石でできた人型っぽい魔物だ。
エレスが風の魔法を放つ。
エアロが命中するが、硬い岩盤のような魔物にはダメージは与えられない。
私は跳躍すると、巨人の背中に剣を斬りつける。
キィィーン
弾かれて、巨人は振り返ると、パンチを撃ってきた。
「マリー!!」
エレスがエアロで私を吹き飛ばしてくれたおかげで、巨人のパンチが当たらないですんだ。
私は建物の屋根に飛び移ると、火炎瓶を投げつける。
巨人の頭部で爆発する。
巨人の注意が私に向いている間に、エレスが駆け抜けて巨人の足元に、魔法剣、アイスリンクソードを斬りつける。
巨人の足元が凍りつく。
巨人がエレスを殴ろうと、拳を振り上げる。
私はアイテムボックスからリボンを取り出すと、エレスに向かって投げつける。
エレスがリボンの先を掴む。
私はそれを引っ張り上げる。
巨人が拳を振り下ろすため、一歩踏み出すと、巨人は滑って横転する。
エレスにアイスソードで斬られて凍りついた足元が、滑ったのだ。
巨人が立ち上がろうとする。
暗黒属性の魔法具の接続が完了した。
「グラビティ」
私は重力魔法を使って、巨人を見えない圧力で押さえつける。
打撃や魔法でダメージを与えられないなら、とりあえず動きを封じ込める。
だがそれは時間稼ぎに過ぎない。
「エレス!!」
エレスが跳躍して、高速で連続してアイスソードの剣撃を放つ。
巨人の巨体が凍り付く。
しかし、それでも倒せない。
巨人が立ち上がった。
まずい、グラビティの効果が切れる。
そう思った瞬間、遠くから、炎の魔法フレイムボールが数十発飛んで来た。
そして、巨体の身体に命中して、爆発する。
さらに、建物の屋根を蹴って跳躍した人影。
白と青が基調の騎士服を着た魔法剣士が聖剣を振り下ろすと、巨人の身体を切り裂く。
巨人から青白い炎が溢れ出し、巨人がゆっくりと倒れる。
そこに立っていたのは、
銀髪の美しい、魔法剣士だった。
その後ろには数十人の王国魔法士団である。
「あなたは、カイン」
「お久しぶり。 エレナ。」
カイン・ローエンド
このチェンバレン王国の王子であり、
そして、エレナの、いやエレスの婚約者でもある。
私たちは、彼に王宮の中へ連れて行かれた。
私たちは、この後カインと私たちで夕食をとる。
大きなテーブルの上には、豪華な高級料理が並んでいた。
だが、私はそんな普通の庶民が一生かけても食べられない食事を前にしても、手がつかなかった。
彼に話を振られても、そっけない対応をしていた。
一方エレスとカインの2人は、話が弾んでいる。
和気あいあいとしている。
それがまた私をいらつかせた。
そうである。私は彼に嫉妬しているのである。
いや、エレスを彼にとられる危機感を募らせていた。
この後、3人で中庭を散歩することになった。
そして、二人の会話が幼い日の思い出話に花を咲かせた後、エレスが私に、2人きりで話かあるからしばらく席を外して欲しいといってきた。
私たちは、宮殿の中の部屋にいた。
きらびやかな装飾品と、豪華な家具が置いてある。
鏡の前に座って、エレスが櫛で髪をといていた。
私の方はというと両腕を組んで、広い部屋をひたすらグルグル歩いていた。
「何をいらついてるの。マリー。」
「だって、あの、カインって人、彼はエレスの婚約者なんでしょう。
これが落ち着いていられますか?」
それにさっき、あいつと何の話をしたんだ。
「それがどうしたのよ。」
「あの人にエレスがとられる。」
「バカね。婚約者っていうのは、あくまでもリバンドンが存在していた頃の話よ。」
エレスが振り返っていった。
「もう、私の故郷の国は、かつてのリバンドンはもうないの。」
「でも、帝国からリバンドンを取り戻したら、王国を再興するために、エレスが王妃に返り咲くんじゃないの。」
私は、彼女の本心を聞いてみた。
お姫様に戻るのか、私とともに冒険者を続けるのか?
「私は、もう、リバンドンの王姫には戻るつもりはないわよ。
リバンドンの再興は、もう、カインに、チェンバレンに任せるわ。
もともと、お互いの両親が決めた結婚だったし、さっき、そのことについてカインとも話し合ったのよ。
彼は、まだ私の事を諦めた訳じゃないけど、そういう事なら、婚約の事は1度白紙に戻そうって、言ってくれたわ。」
そうか、あのイケメン、紳士なんだな。
「そ、それじゃあ!!」
私は歓喜の声をあげる。
「ええ、すべてが終わったら、私はまた、冒険者に戻るつもりよ。
王宮での退屈な暮らしより、そっちの方が性にあってるから。」
「やったー。」
私は飛び跳ねて大喜びする。
エレスも、私と同じ事を考えてくれていた。
私たちの気持ちは通じ合っている。
その思いは間違いではなかった。
「でも、別に、あなたとパーティーを続けるとは限らないわよ。
私は私で、一人で好きにさせてもらうわ。」
エレスはそう言うと、ベッドの中に入っていった。
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