(おまけ)

 同日、追記

「ああ、言い忘れとったが今回のこのお話は必ずしも時系列順になっているとは限らないので気をつけてな」

(エンデルクよりユメカの方が前)

 ふと横を向き、店主は誰にともなく独り言ちる。

 セイガの帰った後、店主はまだパソコンで作業をしていた。

 カチカチと文章を書き

 急に立ち上がると冷蔵庫のコーラをラッパ飲みし

 また椅子に座り

 窓の外を見やる

 …どうやら集中できていない感じだ。

「…ふむ」

 店主は一息つくと、入口に音もなく近付く…そして

「何か用…」

「キャーーーーーーー!!(驚)」

 ドアを開けると共にけたたましい声があがった。

 店主は慌ててその音源を中に招き入れる。

「これこれ…ここは一本外れているとはいえ商店街の一角なのであんまり大きな叫び声は勘弁してくれんかの」

 手を引かれ、現れたのは小柄な少女…

 茶色の長い髪に薄茶色の瞳、細身で耳が長くとんがっている。

 かなりの美少女だったが、同時にそこはかとなく残念な雰囲気を醸し出していた。

「オコ……このうら若い美人エルフなこのオコをこんな所に連れ込んでどうするつもりなのっ?(ぷんすこ)」

 声と感情を露わにしながら少女は店主を指差す。

(ずいぶんと器用なしゃべり方をする娘さんじゃのう)

 店主は賑やかなその少女に妙な感心をしながらも尋ね返す。

「ていうかこの店の前で不審な行動をしていたのはお前さんの方じゃないかい」

「う…(ギクリ)」

 上野下野イヤーは物音とゴシップを逃さない。

 先程から少女が店の前でウロウロとしていたのはご存じだったのだ。

 作業も進まなかったので、ちょっと相手をしてやろうと仕掛けたというのが現状だった。

「と…とにかくオコは悪くないもんっ…ただちょっとセイガくんが楽しそうに出ていったこの…店?が気になっただけだし(全部偶然だよ?)」

 なるほど、それならば彼女に対して自分の方に見覚えが無いのも、その変な行動にも納得がいく…店主は少女を面白そうにみつめた。

「! オコが可愛いからってそんなに見ないでよっ、少し美形だからっておじさんなんかには惹かれないんだからね(引)」

 少女が二、三歩後ずさる。

「むぅ、この儂の美貌には惑わされんか」

「うん、だってなんかうさん臭いし(偽物?)」

「カッカッカッ…それは仕方ないのぅ」

 少女の目利きに驚きながらも楽しくなってしまった。

「ここって…骨董品屋?(何か全部古臭いし)」

「んにゃ…儂の好きなものを集めた、儂の店じゃ」

 答えになっていない。

 それでも少女には通じたようだった。

「セイガくんも何か持ってたけど…(キニナル)」

「ああ、アレはエッチな本じゃな」 

 こっそり嘘を吐く。

「ふぇ? ……(照)」

 意外と耐性が無いのか少女は顔を真っ赤にした。

 続いてぶつぶつと呟きながら妄想に入ってしまう。

「あー、セイガもお年頃じゃろうからこのことはナイショじゃぞ?」

「そそそ、そうですよね(はわわ)」

 斯くして自分の嘘をうまく隠蔽した店主は改めて名乗る。

「儂の名は上野下野、この楽多堂の店主じゃ」

「オコは『大沢多子』…別に好きに呼んで構わないわ♪(えっへん)」

 ようやく自分のペースを取り戻した少女だったが

「じゃあ『モブ沢さん』とでも呼ぼうかの」

「なんでおじさんがその名を知ってるのよ!(何奴?)」

 店主の方が一枚上手だったようだ。


 モブ沢さんを奥の本棚の部屋のテーブルに案内し、店主はみかんジュースを用意する。

 見たところ炬燵とか日本茶とかには馴染みがなさそうだったのだ。

「ありがとう…ございます(慎重)」

 大分おとなしい様子なのは、先程の自分の行いに流石に顧みるところがあったからだろうか…

「あ、美味しい(☆)」

「そうじゃろそうじゃろ、コレはとある場所から取り寄せた逸品なのだよ…やはりみかんは『えひめ』がええのぅ」

 きょとんとするモブ沢さんを横目に店主もみかんジュースを一気飲みする。

「ぷはっ、さてわざわざお前さんを部屋に招いたのには理由があってのう…」

 品定めするようにモブ沢さんをみつめながら

「儂はこう見えて助言をすることに於いては非常に長けておる。所謂次の展開を教えてくれる街のアドバイス長老のように、じゃ!」

 生えてもいない顎の髭を擦るような仕草で店主は断言した。

「えええっ!?(それってまさか?)」

 律儀にモブ沢さんも驚く。

「だから会ってもいなかったお前さんの仇名」

「あだ名じゃないもん(ぷんぷん)」

「…呼び名もご存じだった訳じゃ…それでな、お前さんに教えておきたい大切なことも判明したのじゃが…知りたいかい?」

「うん!(キラキラ)」

 モブ沢さんは逡巡しなかった。

 背景と同じくらい輝いた目で店主を見ている。

「おじさんを信じたわけじゃあ全然無いけど…オコ…『大切なコト』なら何でも聞くわっ(それが私の生きる道)」

 非常に潔いその態度に店主は感嘆したが、今から告げる真実を考えると申し訳ない気持ちもちょっとだけ湧く。

「お前さんは…」

「うんうん…(ドキドキ)」

「非常に稀有な星の運命を背負っておる、だからどんな場合においても『出ることが可能ならば必ず出る』じゃろう…つまりどんな話であってもお前さんは関わる可能性があるのじゃ」

 いきなりの抽象的な説明だったがモブ沢さんには通じていた。

「それってオコがメインヒロインだからってコト?(胸熱)」

「や、それは無い。それからもうひとつ大事なことは…」

 そこで息を吸う。

「ちゃんとした『出番は一度きり』という真実なのじゃ、それ以外はまるでモブかナレーターベースかという扱いになる」

「なんていうことっ!?(そんな…ひどい)」

 モブ沢さんがあまりの真実によろめく。

「そしてお前さんの出番はもう使われてしまった…だから大切なのは『次に』どれだけ自分が活躍できるかということじゃの」

「次に…まだ次があるの?(ふるふる)」

 縋るように店主を見上げる。

「ああ、必ずある。だからその時その時を大事に生きるんじゃ…分かったな」

「ハイっ師匠!!(キラキラ)」

 そうして結果…非常に満足した表情でモブ沢さんは帰っていった。

 恐らく今回セイガに会うこともないまま出番が終了していたことには気付かないまま… 

 店主はそんな彼女の幸せをちょっとだけ祈りつつ、作業を再会したのだった。

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