第39話 魔界都市アルテア
魔界都市アルテア。
和風文化のヴァケット領とは真逆、洋風文化の街並みだ。石造りの建物は、チェルカ先生によると数千年前から変わってないものもあるという。もはや、遺跡だ。でもそれが、普通に現役で使われている。
昔から沢山の種族が行き交って栄えていた、大陸の交易・文化の交差点。
中心にお城の見える、巨大な都市が近付いてきた。
「……お前達の魔法がここまで便利とは。『魔奇術師』ペシャワーズ。お前の配置を考え直そう」
「これはこれは。ありがたい限りでございます。魔王さま」
久し振りにペシャワーズを見た。アルテアから私をここまで案内してくれた案内人だ。普段からお城に居る訳じゃないんだね。この人だけ和装じゃないしね。
「ベラ。これからも頼みたい」
「…………仕事したくない、から。愛歌さんの為なら良いけど」
ペシャワーズの魔法は、魔法の空間を作り、その範囲内の時間を早くするというものらしい。つまり、範囲外では時間は遅く流れる。
ベラさんの魔法は、指定した地点間の距離を短くするのだと教わった。原理とかは私が馬鹿だから説明してもらってもあんまり分かってないんだけど、本当なら馬車でも1週間掛かる距離を、1日くらいに縮められるとか。
ふたりの魔法の掛け合わせで、私達はその日の午前中の内にアルテアまで到着した。
ゴートさまはペシャワーズに頼むつもりだったから、安全に4日だと考えていて。そこに、ベラさんが名乗りを上げたのだ。
ゴートさまに感謝されて、ぶっきらぼうに顔を逸らしたベラさん。
「さて。俺とキーラは正門から。……ベラも来るか?」
「嫌だ」
「まーー。ベラったら」
まだ、都市の前。ここで二手に分かれる。ヴァケット領主がアルテアにやってくるということは、結構なおおごとらしくて。事前に報せていたから、見物人も記者達も集まっているらしい。
「ではバクラ。ふたりを頼む」
「ああ。任せろ」
バフォメルト一家総出で。私の為に。
因みにソウたん君とおサキちゃんはお留守番。イナリ国王族の生き残りがヴァケット領の駕籠でアルテアに来るなんて、政治的にややこし過ぎるらしい。
バクラさんはいつもの鎧姿じゃなかった。あれは目立つもんね。高級そうなしっかりした着物だ。前をはだけさせるのは、ゴートさまと一緒。いやキーラさんもちょっと胸を強調してるし。家系なのかな。ずるい。
私が入るのは、ひとり用の小さな駕籠。まだまだ焔摩の月は厳しい。私は外に出られない。
バクラさんを筆頭に、私に付いてくれるのがベラさん、リッカさん、メリィ。それと、駕籠持ちの兵士さんふたり。
王族なんだからベラさんも駕籠で良いと思うんだけどね。遠慮されちゃった。
「こっちだ。貴族が利用する人間用の医者が居る。盟主も利用する所らしいから信頼はできる筈だぜ」
都市の裏手に回る。どうやら貴族の住宅街の方へ向かうらしい。私は
ゴートさま達を乗せた駕籠の一行は、正門へ向かっていった。歓声が聴こえる。ゴートさま、都で人気者なのかな。
「盟主?」
「アルテア同盟の盟主。都市の市長。ゴート兄さまとは……知り合いらしいけど、わたしも詳しくは知らない」
質問に、ベラさんが答えてくれた。アルテア同盟に加盟している国が、『交換見合い』で人間の嫁を娶ることができる。つまり、魔界でも最大勢力のひとつ。
「ゴートとは、まあ因縁の仲だな。色々あったが、こういう時に頼れる人ではある」
バクラさんの補足。世間では弱小国家のヴァケット領が、魔界一のアルテアと強い繋がりがあるとは。
一度、交換見合いをしたとは言え。
……いや、それすらも、そのコネクションのお陰なのかな。
役人さんの会話とか聞く限り、今のヴァケット領の経済状況で交換見合いをするのはリスクだったらしいし。
今だって。実際に、私の為にお金が掛かってる。
「…………」
そこまで考え至って、少し気が滅入る。
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