第40話 魔界の月光毒

 初めて来る貴族街。ここは、アルテアの大通りとは違った雰囲気だった。閑静で、建物は皆大きくて。けれど、洋風、和風、華風と。色んな様式のお屋敷が混在してる。

 確かに、文化の交差点というだけある。


「バクラ魔弟さま。こらちでございます」

「おう」


 病院は、ひと目では分からなかった。洋風のお屋敷だ。病院じゃないのかもしれない。誰かの別荘だったりするのだろうか。


 私が焔摩の月光に当たらないように、駕籠は玄関の中まで入ってもらった。広い玄関だ。駕籠も余裕で入る。


「お初にお目にかかります。アルテア盟主ドラード家付き秘書、レーベと申します」


 手を付いて、挨拶をしてくれた人。

 ライオン……の顔。他は人。洋式のスーツ姿。そういう種族の、魔族だ。レーベさん。盟主の秘書? 凄い……。


「あ、えっと……。宵宮愛歌です」

「愛歌さん。良いんだよ。まだ人前式してないんだから、領外の者に挨拶しなくて」

「えっ」


 そうだ。習ったのに。魔妃としての挨拶。咄嗟に出なかった。悔しい。いやしなくて良いかもだけど。今後はできなきゃいけないし。


「お前は要るだろベラ」

「…………」


 バクラさんに突っ込まれて、そっぽを向くベラさん。


「いえ。必要ありません。では早速、こちらへ。診察室へご案内いたします」


 メリィの手を借りて、駕籠から降りる。


「ありがとうございます」


 ここまで運んでくれた兵士さん達にお礼を言って。リッカさんと一緒にお屋敷へ上がる。


 濃い緑色のカーペット。紅とグレーのクロス。青い光のシャンデリア。

 凄いんだけど、色が魔界。






★★★






「入院です」


 お医者さまは、人間の男性だった。40歳くらい。普通のおじさま? 日の下ヒノモトから出張というか、雇われて勤務しているらしい。このお屋敷の主人は魔族なんだけど、隠れ家的にこのお部屋で、人間専門の病院をやっているのだとか。


「えっ……」


 四角い眼鏡を掛けた真面目そうなお医者さま。

 聴診器を私の身体に当てたり、色々と触診してから。採血をして。


「入院です」


 2回。きっぱりと言った。


「確かに、肌の『焔摩焼け』は代謝を重ねると見かけ上は治ります。問題は月光毒ですね」

「月光毒……」

「愛歌さまのお身体には、魔界の月光を浴びたことによる毒が溜まっています。これは、本来どの月でも一定値は必ず溜まるものです」


 魔界の月光。人体に毒だということは最初から知っている。魔界へ来る前に麗華国リーファで習った。普段の毒なら少量で特に問題ないけど、特定の月の時は、毒の量が増えて危険だと。

 特に、火の月から羅刹の月上旬くらいまでの約2〜3ヶ月間。


「現時点では、そこまで影響は出ていないようですが。……身体や頭が重い、などありませんか?」

「………………」


 そう言えば。気にするほどでも無かったというか。普通の、体調不良くらいにしか思ってなかったけど。


「愛歌さま……?」


 メリィが心配そうに顔を覗き込んできた。


「…………ほんのり、ちょっとだけ。頭痛みたいなのは、あります」

「入院です。お部屋をご用意します。手続きは」

「それはわたくしが……。侍女のメリィと申します……」

「どうしようメリィ。ゴートさまに何て説明しよう。私、ここに残るの?」

「…………ゴートさまへの報告は、バクラさま。お願いできますか……?」

「分かった。行ってくる」

「………………」


 どうしよう。

 入院、って。日の下でも、したことない。そんなお金がある家じゃなかったし。大きな病気なのかな。今のところ、そんなに辛くもないんだけど。


 怖い。

 魔界の月光毒って、どうなるんだったっけ。


 うう……。

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