第38話 相談
数日経って。
少し、良くなってきた。まだ自分の足じゃ立てないけど、顔や腕、身体の表面の患部は減ってきた。
ちょっとだけ、頭が重たい感じがするくらい。
「すぐに都へ行って人間の医者に診せたいんだが」
「……都まではどれくらいの想定ですか?」
「全速力だと6時間だな」
「それでは中の魔妃さまは吹き飛びます」
「安全に行くなら、4日だな」
「分かりました。今の愛歌さまの状態なら、4日程度なら耐えられるとは思います。しかし、愛歌さまの体調次第では」
「…………ああ。分かっている」
「お医者さまをこちらに呼べないのですか?」
「ああ。普通の医者なら呼べるが、焔魔を診れる人間の医者となると、基本的に都の外に連れ出せない法律がある」
「それは……。確かに」
襖を挟んで向こう側、ゴートさまの執務室から会話が漏れ聴こえる。リッカさんとの会話だ。私を都に連れて行くタイミングを図っているみたい。
「…………愛歌さん」
「うん?」
今日も、こっちの部屋にはベラさんが来てる。バクラさんが軍事、キーラさんが外交だけど、ベラさんは特にポストは無いみたい。私に時間を取ってくれるのは嬉しいな。
「人間のあんたに言うのもおかしな話だと思うけど。あんたは『人間に注意』しなよ」
「………………えっ?」
少し考えて。
ちょっと経って、思い至った。
「…………魔女団への勧誘」
「そう。きっとこれから、その場面は来る。あんたが人間で、破魔嫁である以上。絶対に、それから逃れられない。奴らは常に狙ってる。奴らは人間で、短命で、魔界の気候に適応できなくて、常に人材不足でもあるから」
「…………」
魔女団は、今も魔界中を巡って、魔族の集落を襲っているらしい。20年前のシェパルドでは、戦争に参加した国に雇われた可能性が高い。そう聞いた。
夏と冬は、気候のせいで活発には動かないと思うけど。相手は『人間』だ。恐らくどんな汚いことでも平気でやる。
「実は、各国の記者が以前から取材の申請が来てるんですのよ」
「キーラ」
「キーラさん」
「『姉さま』を付けなさいったらベラ」
このふたり、めちゃんこ来てくれる。めちゃんこ嬉しい。誰より来てくれてる気がする。
……多分だけど、同じ女性だからかなあ。戦争っていう非常時がいつ来るか分からない魔界では、女性っていうのは弱くて不利になりやすいから。特に、『人間の』が付く私は。この世界で一番弱い。
のに、破魔の瞳があるから狙われやすい。今はまだ、私は誰かに守って貰わなくちゃ生きていけない。
皆、心配してくれてる。
早く一人前にならなくちゃ。
「……人前式は羅刹の月だとは伝えてますけれど。どこからか、『能力持ち』というところまで漏れたようで。……今は追い返していますけれど」
「記者。取材……」
「まあ、ゴート兄さまはちょっとした有名人だし。その妻が人間であることに関心が高いのは納得だけど。人前式もまだなんだから、まだ愛歌さんを人前には出せないけどね」
「…………その人前式だけどさ。私、今チェルカ先生の授業も中断中で。予定、大丈夫なのかな」
「延びる可能性はありますわね」
「ごめん。わたしのせいだ」
「ベラさんは悪くないよ」
「もう、愛歌姉さまもベラも、謝り合いはおしまい。時間の無駄ですわ。聴こえたでしょう? つまりは、これから愛歌姉さまを診て貰う為に都へ。すると当然、耳目を集めるでしょう。ゴート兄さま――『計算高き冷徹なる山羊の王』ゴート・バフォメルトが都へ入るなら、お忍びという訳には行かないんですの」
キーラさんが視線で、隣の部屋を指す。
都。
この辺りで『都』というと、それはひとつ。
魔界都市アルテアだ。
私はアルテアから、ここへ来たんだ。
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