第37話 優しい種族、狡い種族
「そう。赤より黄は細いらしいんだけど、どう?」
「うーん。確かにほんの少し、細いかも」
ここの所。
私の(というかゴートさまの)寝室に、ベラさんがよく遊びに来てくれる。
今は、ベラさんが持ってきてくれた書籍に書いてある、破魔の瞳持ちの人間のことが書かれてあることをふたりで一緒に確認している所。
「で、一番細いのが白。これ、わたしが作った表だけど。こっちから段々細くなる順」
「あー確かに。そうそう。合ってるよ。凄いなあ。魔力見えてないんだよね?」
「…………まあ、書かれてたこと纏めただけだし、別に」
「凄いよ。色んな書物を取り寄せて、自分で研究して、纏めてくれたんだもん。ありがとうね」
「………………まあ」
うふふん。
嬉しいな。ベラさん、私と同い年だし、なんだか親近感あるんだよね。こうやって恥ずかしい時は、指で髪をくるくるする癖があるの。そっぽ向いちゃって。うふふん。
「愛歌姉さまーー! お見舞いに来ましたわよーー! その為にお仕事ソッコーーで終わらせて来ましたわよーーって、ベラ!」
バン。
勢いよく襖が開けられた。勿論キーラさんだ。その豊満な胸を揺らしながら。外交官として公的な礼服って言ってたけど、丈の短い和服で彼女が着ると長い脚が出てセクシーなんだよね。こんな和服は
因みに、この隣では普通にゴートさまがお仕事してる。胸元をはだけさせながら。
「……キーラ」
「まーー。『姉さま』と付けなさいってばこの子は」
ベラさんはキーラさんを見て、居心地悪そうに立ち上がった。
「ベラさん」
「……また持ってくるから」
「えっ。うん。ありがとう」
パタン。静かに襖が閉められた。見送ったキーラさんはふんふんと満足気に頷いた。
「良ーーいですわねえ。あの子、『人間の破魔嫁が来る』と聞いた直後に、関連資料を取り寄せて読み漁っていたんですの。……愛歌姉さまの為に」
「そう、だよね。そうじゃないと説明つかない理解度だもん。
実際、チェルカ先生の授業では学べないことまで専門的に話してくれるベラさんはとてもありがたい。一気に仲良くなれた気がするもん。
「でもまだ、気恥ずかしいんですわね」
「…………うん」
優しい人だ。
ベラさんは、ハルフさんのことをまだ大好きだし。でも、私も見てくれようとしてる。それが伝わってくる。ぶっきらぼうだけど、真面目で。誠実で。そんな所は、兄妹で似てるんだなとか思って。
「それは?」
「うん。魔力の糸にも、色によって細さが違って。
「へーーえ。あの子そういうの得意ですわね」
「……複雑、だとは思うけど」
「愛歌姉さま?」
「…………」
優しい人だ。
私が悩んでいることなんてお見通しで。すぐに、察して抱き締めてくれた。
戦闘魔族? そんな馬鹿な。
世界で一番優しい種族だよ。ケプラホルンは。
「愛歌姉さまが責任を感じるほどお優しい心の持ち主ということは知っていますわ」
「…………キーラさん暖かい」
「リッカ達のお陰ですわね。部屋が涼しいから、人肌を感じられる」
私の身体はまだ満足に動かない。皆が、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。侍女悪魔さんだけでなく、王族の彼女達も積極的に。
「『人間』と一括りにしてしまえば、確かに愛歌姉さまも入ってしまいます。けれど、ワタシにとって。ベラにとって。兄さま達にとって。メリィにとって。……愛歌姉さまはもう『愛歌姉さま』ですわ。誰が、種族が同じというだけで何の関係も無い愛歌姉さまを責めましょうか」
「………………うん。ごめん」
「何故謝るの」
「……そう、言って欲しくて。こんなこと言ったかもしれないから」
「それはもう、サインですわ。無意識に、助けを求めるサイン。愛歌姉さまの心の平穏の為に。ワタシはいつでも。いつまでも。抱き締めて差し上げますから」
私は人間だから。
多分、魔族の人達より『狡い』。
多分。
『彼女達』のやり口も、分かる気がする。
こんなに優しい人達を滅ぼした、『魔女』の。
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