第36話 魔王の破魔嫁
私の傷は、結構笑い事じゃないらしくて。
「もう二度と。絶対に。もう本当にしないでください。…………雇われ部外者の私が言うのも変ですけど。この後で魔王さまに、人間用の医者を城に常駐させるべきだと進言しに行きます」
リッカさんにめっちゃんこ叱られた。ああ確かに。お医者さん、この城に居ないよね。いや、魔族用のお医者さんは居るのかな。そもそも魔族にお医者さんが必要なのかも分からないけど。
「手も足も基本的に動かしてはいけません。食事も着替えも全て侍女悪魔にお願いすること。……破れば皮膚だけでなく骨までボロボロと崩れて修復不可能になりますからね」
「やば……」
「燃えて灰になったものをどれだけ、たとえ絶対零度で冷やしても元には戻りません。それと同じ。魔妃さまは数秒程度だったので肌の新陳代謝が進めば治るとは思いますが……毒素については私は医者でないので分かりません。一度都の人間病院で診て貰っても良いかもしれませんね」
リッカさん、色んな『人間の嫁』の所へ行っている経験があるから、こういうアドバイスしてくれるんだよね。
ありがたいなあ。
★★★
「愛歌」
「ゴートさま」
皆それぞれがお見舞いに来てくれて。
最後に、ゴートさまが残った。
「謝るのはナシですよ」
「……ありがとう」
「ふふっ」
先手を打って、『すまなかった』を防いだ。この人は、誠実で真面目過ぎる。今回ゴートさまに悪いところなんて何も無かったのに。
まあ、ヴァケット領全体の責任者ではあるんだけど。責任感強い人なんだよねえ。
「……俺にはできなかった。ベラの心の闇は、ハルフの死に紐付いていた。キーラは愛歌のことを逆効果だと予想していたが、それが逆だったらしい」
そうだ。
その件。
私は。
……訊く権利くらい、あるよね。
「訊いて良いですか? ハルフさんのこと」
「…………」
しばらく。
沈黙が流れた。
「………………俺の」
「?」
それだけ言って。
また沈黙。
「…………」
この。
ゴートさまとふたりきりの時の沈黙。
結構好き。
「…………」
「……?」
けど流石に長い。ちらりと見ると。
目が合った。私を見てた。
「なんですか?」
「いや……」
「?」
「……ベラが、愛歌に」
「思い出したんですか? あっ。重ねました? ハルフさんと」
「……それは失礼だろう。ふたりに」
「私は良いですよ? どんな人だったんですか?」
私は。
人間の嫁として、魔界に嫁いできた。
ゴートさま達の故郷を滅ぼしたのは、私と同じ人間によって組織された集団で。しかも、私の持つ破魔の力を極めた『祓魔』『滅魔』の使い手で。
魔法より強い呪術を使えるのは、魔族より強い……。つまり、人間との
死別か離婚か、なんらかの理由で魔王の元を去った『人間の破魔嫁』と、その生まれた子供で組織された……。
『魔族を恨む人間の集団』。
絶対、複雑だった筈だ。皆の呪いを解くのにも破魔が必要だけど。希少な能力だから、中々見付からなくて。20年掛けて、ようやく私を見付けたんだ。
ベラさんだけじゃない。
バクラさんも。キーラさんも。メリィも。
ゴートさまも。
そんなこと、私に全く見せないで。気を遣わせないようにしてくれて。受け入れて、迎え入れてくれて。親しくしてくれて。
シェパルドの皆さんを、ハルフさんを殺した人達と同じ種族の……私を。
妻だと。
義姉だと。
魔妃さま、と。
「…………確かに似ている所はある。だがお前は愛歌だ。他の誰でもない。気にすることは無い。お前は俺の妻で。それだけだ。それ以外は無い」
「いつか私が外へ出歩けるようになったら、また行きますからね。シェパルド。今度はもっとゆっくりお墓参りしなくちゃ」
「……ああ。分かった」
前を向いたと言っていたけど。
きっと、呪いを解かないといけない。全部それからなんだ。まだ、皆の中では終わってない。
「……もし、私に破魔が無かったら。私を選んではくれなかったんですよね」
「そうだな」
この人は。正直で誠実だ。もう、慣れてきた。私の為に、言ってくれてるんだと。
「だが、俺が交換見合いで一番最初に出会った破魔の持ち主が愛歌で良かった」
ポン、と。頭を撫でられた。大きな手。優しい手。私の旦那さんの手。
もっともっと、修行をしなくちゃいけない。
「エヘヘへ……」
この
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