第24話 修練場にて

「……聞きましたか。では詳しく説明いたします。愛歌さまの最終目標である、『破呪』について!」


 ばん。

 チェルカ先生が、黒板を強く叩いた。ごくりと、喉が鳴る。


「破呪。……破魔、じゃないんだ」

「その通り! 重要なことです。呪いというのは、魔法とは原理自体は同じですが、異なる特性、特徴があるのです」


 破魔嫁修行は再開された。いつもの日常に戻った。新たな、小さな同居人を加えて。


「…………と、こういうことです! 良いですか?」

「はーい」

「さて。しかし愛歌さまのやるべきことははっきりしています。破魔の経験を積むこと。回数をこなし、かつ色んな種類の魔法を破ること。そして破魔自体の燃費を抑えることです。1度や2度使用しただけで気絶していては、この先はやっていけません。これも練習あるのみ!」

「はい!」


 ケプラホルンに掛けられた不妊の呪いを解く。これが私の役目。そして、それが達成されれば。

 魔王さまと、夜を…………。


「愛歌さま! 目と口と涎と指が半開きで垂れています。四垂れ半開き!」

「エヘヘへ…………」


 おっとっと。いけないいけない。子供達も居るんだから、変な妄想はよくない。


 でも。


 魔王さまのお身体。着物の上からでも分かる逞しさがあるんだよねえ。あの腕に……。きゃー。


「五垂れ!?」

「うおっと」






★★★






 午前中の授業が終わって。破魔の練習と、昼前の入浴も済ませて。


「稽古?」

「はい……。この前の出陣でご自身の体力低下を痛感したご様子で……。バクラさまと竹刀での模擬格闘を」


 メリィの案内で、修練場に向かう。そう言えばソウたん君とおサキちゃんに城を案内しろって魔王さまに言われたけど、私がまず城の全体を知らないんだよね……。月光の当たる場所は行けないし。


 城の1階。武道場のような別館がある。お風呂の近く、お庭の反対側。


 魔王さまとバクラさんの試合と聞いて、見物人が集まっていた。私も気になるもん。


 で。その見物人さん達は皆魔族だし屈強な男性ばかりで、そもそも修練場に入れないし見えないんだよね。


「こほん。魔妃さまの御通りです。開けていただけますか……?」

「えっ」


 メリィが大きな声を出した。


「まっ。魔妃さまっ!」

「これは失礼いたしました!」

「えっ」


 割れた。

 道ができた。


 大柄の男の人達が。姿勢を正して私に道を譲った。


「さあ行きましょう……」

「うっうん。……あの、ごめんなさい。ありがとう」


 なんだか申し訳無い。魔妃って、こういうことなのかな。私なんて、魔族の人がその太い腕を適当に振り回すだけで即死するくらい弱いのに。


「魔妃さままで……」

「おおごとになってきたな……」

「魔妃さまちっちゃいな……」


 ざわつく修練場。私、もしかして場違いなのかな。こそっと遠くから見る方が良かったかも。

 ……ちっちゃいって、胸じゃないよね!?


「あっ。愛歌! こっち来いよ!」


 中に入ると、興奮した様子のソウたん君に見付かった。隣におサキちゃん。キーラさんも居る。あそこが一番見やすい場所かも。周りが遠慮して席も空いてる。


 わっ。


 熱気。声。凄い。中心の舞台を見ると、魔王さまとバクラさんが向かい合っていた。ふたりとも、上半身裸だ。きゃー。


「丁度今からだぜ!」

「おねぇさま! こちらにお座りになってぇ!」

「うん。ありがとう」


 おサキちゃんの隣に座る。


「魔法魔術無し。剣術のみの試し合いです。ご両人、良いですかな?」

「ああ」

「おう!」


 行司の人が仕切る。ふたりは正面から向き合って、それぞれ竹刀を構えている。

 今から戦うんだ。うわ。うわ。


「では、始めっ!」

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