第22話 魔王子と魔姫

「それで、その子供達は……」


 それぞれの報告も一通り終わった頃。

 役人さんのひとりが、遂にそれを言った。

 皆の視線は、その子供達に注がれる。


 桃色の女の子と、黄色の男の子。

 狐耳と、9本の尻尾。


「あらぁ。ようやく自己紹介ですぅ? はぁい。あたしは、おサキ・イナリ。種族はキュービ! ですぅ」


 おサキ、ちゃん。

 キュービ。九尾……の狐か。凄い。日の下にも、狐の伝説がある。昔々、魔界と不定期で繋がってた時代の話だろうな。


「ほらソウたん! 起きてぇ!」

「んがっ。ふが……。んんっ!」


 男の子の方は尻尾で身体をくるめてすやすや眠っていた。話、長かったもんね……。おサキちゃんに揺すられて、びくりと飛び起きた。


「おれはソウたん・イナリ! おサキの双子の兄貴だ! あっゴート! 魔法教えてくれよ! 約束したろ!?」


 声が、大きい。ソウたん、君? おサキちゃんもだけど、ちょっと変わったお名前だね。


「…………見ての通り、ふたりは希少種キュービだ。彼らの故郷は東の海を渡った先、遠い向こうの列島諸国。そこでも多数の小国があるが、ふたりの生まれた国は滅んだらしい。大陸には亡命してきたそうだ。宛もなくアンフェール地方を彷徨っていた所を保護した」

「キュービ……!」

「いやはや、幻種にお目にかかれるとは……」


 講堂はざわついた。希少種。幻種。キュービってそんなに珍しいんだ。


「亡命。国の者が最後に逃がしたという訳ですの」

「ああ。俺達と一緒だ」

「つまり……亡国の王族」

「!」


 キーラさんが確認する。王族。キュービの、国の。


「その通りだ。イナリ国の魔王子と魔姫まひめ。今後のことはまだ考えていないが、捨て置けん。しばらくは城で面倒を見ようと思う。皆の意見は?」


 魔王子。

 魔姫。


 この、まだ幼く見えるふたりが。


「あたしとしてはぁ。イナリ国の再興に、強ぉいお婿さまが欲しいですぅ。例えばバクラさまみたいなっ」

「勘弁してくれ……」


 おサキちゃんがバクラさんに向けて、パチリと熱烈なウインクした。


「おれは国は興味ないや。そっちは、おサキの好きにしてくれ。おれは魔法を極めたい! なあゴート! 教えてくれよ! なあ約束!」

「……暇ができたらとも言ったぞソウたん。お前達のことを含めた、これからのことを決めねばならん。取り敢えず、部屋と侍従を用意する。数日待て。城の中に居れば好きに過ごして構わん。良いな?」

「ちぇ……」


 そして。

 おサキちゃんはバクラさんに。

 ソウたん君は魔王さまに、懐いてるみたいだ。


 本当、この遠征で何があったんだろう。


「なあ、その人間は何なんだ!? 奴隷か!?」

「えっ……」


 ソウたん君、私のことも気になるのかな。まあ、10歳くらいなら全部気になって仕方ない年頃だよね。


 いや、奴隷って。


「俺の妻だ。愛歌」

「うん。私は宵宮愛歌。ふたりとも、これからお城に住むんだね。よろしくね?」


 自己紹介する。

 妻。

 きゃー!


 いやいや。こんな皆が見てるところで垂れたらチェルカ先生に怒られる。


「ふーん。へんなの」

「えっ!」


 ソウたん君、なんか私に辛辣じゃない?


「よし。じゃあ愛歌。ふたりを案内してやってくれないか」

「分かりました」


 任された。

 ……いや、私達抜きでの話がしたいんだよね。それも分かった。


 でも。


 その後でも良いから、もうちょっと魔王さまとの時間、取れないかなあ。

 もっとお話したいのに。


「じゃふたりとも、付いてきて。まず汚れを落とさないと。お風呂行こう?」

「はぁい」

「ええー!」


 とにかく今は。

 もふもふでプルンプルンに揺れる尻尾のこの子達だ。


 なんというかめっちゃんこ可愛らしい。私には弟がふたり居るから、なんだか懐かしい気もするし。

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