第21話 講堂にて報告

 私達は、取り敢えず魔王さまとバクラさんの湯浴みを待って。


 今回の報告の場に、参加させてもらうことになった。


 あの、屋外の講堂で。魔王さまは最奥中央の魔王の椅子に。正面に、バクラさんとキーラさん。それから、役人さん達が続く。


 私は、魔王さまの隣に椅子を用意してもらった。まだ『人前式』を行ってない破魔嫁修行中の身だから、本当は私は参加できないらしいんだけど、今回は戦争っていう非常事態で、私自身が敵の襲撃を受けたから、だって。

 めちゃんこ緊張する。因みに私の座る椅子の背後にメリィが立ってる。


 で、バクラさんの横にあの狐の子がふたり並んでる。


「…………バクラ。俺から説明するぞ」

「……ああ」


 魔王さまが口を開く。バクラさんは頷いた。

 全員が傾注する。緊張が張り詰められた。


「国境付近でゲオル軍と戦闘になった。結果的には、追い返すことに成功した。こちらの損害は兵士4名と馬2頭、馬車1台。戦果は向こうの将軍ひとりと兵士10名ほど。圧勝だ」


 おおっ。と、役人さん達から声が漏れる。


「だがやはり、囮だったようだな。わざわざ向こうの魔王まで出張って、俺を引き摺り出した。……本命はこの城に忍び込んでいたという訳だ」


 国が。

 軍と、その魔王を連れて。国境まで近付いて。そんなの普通は、全面戦争だ。魔王さまはどうしたって対応せざるを得ない。


「……もしや魔妃さまのことが漏れていたと」

「だろうな。『破魔の瞳』は

「!」


 役人さんのひとりが予想をする。魔王さまが肯定すると、皆の視線は私に注がれた。

 ちょっと怖い。


「お待ちに。あのレッドオーガはワタシとメリィを見て標的にしましたわ。狙いはケプラホルンではないかしら?」


 キーラさんが手を挙げた。そうだ。確かにあの人はそう言ってた気がする。


「……その侵入者への尋問は?」

「まだ、何もしておりません……。魔王さまのお戻りを察知しましたので、ご判断をと」


 魔王さまの質問にはメリィが答えた。

 尋問。


「分かった。この後で俺がやろう。だが……。こうも容易く侵入を許すとはな」

「!」


 魔王さまから、魔力が放たれた。これは、感情だ。怒りと失望と、悔しさ。魔力の見えない役人さん達も、それを感じ取ったのか、戦慄の表情に変わった。


 魔王さまの、威圧感が凄い。


「ゲオルの軍は勇猛だ。となると、今の我軍では総力を挙げねばならない。……必然的に守りは手薄になる。この城には普段からも、文官しか居ない……。、だ」

「う……っ!」


 役人さん達から、小さな悲鳴みたいな声が漏れた。

 怒ってる。


「もう少し、警備を整える必要があるな。バクラ」


 その威圧感のまま。バクラさんにバトンタッチ。


「……分けて良いなら配置を変えるぜ。少ない兵をどうにかやりくりするしかねえだろ。俺らはまだまだ弱小国家だ」

「…………ああ、そうだな」

に、城より魔妃さんを取ったんだろゴート」

「!」


 バクラさんの言葉に、魔王さまがはっとした。


「そのために、メリィを付けたんだろ。間違ってねえよ。結果、魔妃さんは無事だ。キーラもベラも。人件費浮かす為に、キーラも鍛えてんだ。堂々としてろよ『魔王』。ちょっと落ち着けお前」

「…………む」


 諌められる。多分、魔王さまにここまで言えるのは、バクラさんだけなんだ。


「…………そう、だな。俺は焦ったんだ。計算を間違えたと思った。……愛歌に、万が一が、あったかと」

「えっ」


 急に。


「無事で良かった」

「……っ!」


 目が合った。

 熱くなった。いや、そもそも暑いんだけど。

 魔王さまは、私を心配して……。

 何その優しい笑顔! 


「……恐らくゲオルは諦めないだろう。今後の対策もせねばならない」

「は。……まずは、ペザンへの追及ですな」

「ですな。よもや我々を裏切るとは」

「しかし彼の国にも事情が」

「ヴァケットの怒りを買うほどのことか?」

「うむ……」

「既に手は打ってありますわ。その件もここでご説明いたします」

「頼むキーラ」


 そこから話は、私の分からない外交のことになった。


 私はずっと、魔王さまの横で頬がのを我慢するのに必死だった。


 ……エヘ。

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