第20話 魔王軍凱旋

「あんたは目付きが悪いから、嫁の貰い手が無いねえ。悪いと思ってるよ。おとっつぁんの目だけ受け継いでしまって。アタシは評判の美人だったし巨乳なのにねえ」


「電話応対で良いよ。宵宮さん、直接会ったお客さんから愛想が悪いって言われてるんだ。電話なら普通だからさ。まあその分、給料は下げさせてもらうけど」


「宵宮ァ? あー……。目隠ししてくれたらヤれるかなー。ぎゃはは」






★★★






「愛歌!」

「わっ」


 ピシャリ。ガラガラ。

 荒々しく襖が開かれた。


 お城に侵入者が現れた、3日後の午後だった。私はうだるような暑さで文字通り時。


 魔王さまだった。


「魔王さまっ!?」

「無事か。怪我は? 何かされていないだろうな」

「えっ。ええっと。大丈夫、です」


 姿は甲冑のまま。汚れている。髪もボサボサ。正に今の今まで、戦場に居たような風体。


「凱旋だぁぁっ!」

「!」


 窓の外――下の方からときが挙がった。ガラガラと城門が開けられる音がする。


「ゴートさま……。お帰りなさいませ……」


 メリィが部屋を覗いてきた。


「メリィ」

「愛歌さまはご無事でございます……。まずはご報告と、それからお身体を清められてから、改めて愛歌さまをお訪ねになられては……」

「む……。そうだな。悪かった」


 諌められて、魔王さまはまたドタドタと部屋を後にした。

 メリィが同時に入ってくる。


「どうやら急いで戻られたようですね……。馬車から抜け出して、誰よりも速く」

「…………うん」


 何にせよ。

 魔王さまも無事みたいでよかった。






★★★






「でっけええ! すげえ! お城だお城!」

「あぁん、バクラさまぁ! お待ちになってぇ!」


 1階まで降りて。皆を出迎えようとしたんだけど。


「…………子供?」


 ちょっとよく分からない光景が広がってた。


 隊の先頭にバクラさんが居た……んだけど。女の子がくっついてる。

 桃色だ。

 10歳くらいかな。桃色の髪……いや、毛並み。ツンとふたつの三角形。獣の耳。


 大きな、キツネのようにふわふわに膨らんだ尻尾が。


 ひぃ、ふぅ、みぃ。


 ……9本。生えてる。


「ねぇん。バクラさまぁ」

「はぁ……。暑いから引っ付くなってお前」


 なんだこれ。そんな女の子が、バクラさんの腕に絡み付いてる。ぶんぶん振られて、しがみついてる。バクラさんは困り果てた表情。


 なんだこれ。


「オーーホッホッホッホッホ!!」

「わっ」


 反応に困ってると、私の後ろからキーラさんの笑い声がした。


「ぶふーー! なんですのバクラ兄さまそれ! お、ごほっ。オーーホッホ!」


 咳き込むくらい爆笑してる。


「…………先にゴートが帰ったろ。説明は」

「ゴート兄さまは今湯浴み中ですわ」

「なんでだよ……」


 その、バクラさんの隣に。

 黄色い毛並みの、桃色の子と同じ背格好の男の子が居た。お城を見て、目を輝かせていた子。


 次に私を見た。


「おいお前!」

「へっ。私?」


 ぴょんと、私の目の前までジャンプしてきて。

 小さな拳をギュッと握り締めて。


「人間だろ!? 初めて見た!」

「う……うん」


 そう言った。


「すげえ! 人間だ人間! なあ、おサキ!」


 アーモンド型の目。細く鋭い瞳孔。異様に整った顔のパーツ。小さな鼻と口。耳が無い……いや。人間の耳が無いけど、そのもっと上に獣の、狐耳がある。

 肌は白い。火の月に照らされて輝いてるみたい。毛並みが肌に映されて、溶け出してるように黄色が白肌に混じってる。綺麗……。

 女の子もそう。桃色が溶け出した白い肌が、まるで紅潮しているようで、子供なのに色っぽい。


「あらぁ? へぇ、人間ですってぇ?」

「うおっ」


 おサキ、と呼ばれた桃色の狐娘ちゃんも私に気付いて、バクラさんからするりと離れてしなやかな足取りでこっちに。男の子の隣にやってきた。


 瓜二つの顔。髪の毛の長さと、毛並みの色だけが違う。

 ふるふると、ふたりともが9本の尻尾を震わせている。


「ふぅん。人間って、大人になっても胸が無いのねぇ。ソウたん」

「え、こいつ女なのか!?」

「うっ」


 ガーン。


 ちょっと、言い過ぎじゃないでしょうか……。

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