第14話 魔妃の役割

「――はい。以上が『魔法』の学問としての歴史、その概要です。良いですか?」

「はあい。やっぱり人間の私からすると面白いですねえ」


 引くような暑い日が続いている。今日も元気にチェルカ先生の授業。


「さて。では座学はこれくらいにして。『破魔』の練習に入りましょう」

「やった!」


 ようやくだ。待ってました。だって魔法、楽しそうなんだもん。皆普通に魔法使うし、城にも至るところに魔法が掛かってる。


 人間は魔法を使えない。けど、私はこの目で関わることができる。


「まずは、『破魔』というものに慣れるところから始めましょう。やり方は分かりますか?」

「……えーっと。なんとなく……」

「当然ですね。これから経験してくのですから。では準備します」


 一度だけ。メリィに対して使ってしまった。あれだけ。あの後気絶して。あんまり正確に覚えてないんだよね。破魔の瞳と言っても、ただ見ただけじゃ発動しないのは分かってる。


 先生は、燭台を用意した。蝋燭を立てて、パチンと指を鳴らす。


「わ」


 ボッ。

 蝋燭に火が灯った。


「さあ。これなら私でも見えます。ただの火ではなく、魔法の火。魔力によって点火した火です。これを『視線のみ』で消してみましょう」


 私と燭台との距離は、3メートルくらい。室内だから風も無い。


「…………」


 見る。改めてきちんと視てみる。

 赤いもやもやだ。あれが魔力ということは分かってる。もやもやは、火に群がるように、ぐるぐると糸を巻いているみたいに見える。あれが、『火の魔力の形と動き』なんだ。


 ここで学んだ知識だ。魔力の形と動き、そして色の種類によって、どんな魔法かが決まる。分かる。法則があるんだ。


 大抵の人は感覚でそれを行ってる。けど、私は破魔の瞳の副産物として、魔力を見ることができる。どんな魔法かをよく理解すれば、破魔もしやすい筈。先生はそう言ってた。


「………………」


 見る。じっと。私にはそれしかできない。


 するともやもやが、僅かに揺らぎ始めた。


「はぁ……っ」


 急激に疲労感がやってくる。息が切れる。けど、前よりは随分マシだ。多分、日頃から魔界の食事を摂っているから。


 視る。


 つまり、あのもやもやの中の『火足らしめる要素』を崩せば良いんだ。正しい形を失った魔力は霧散する。それも教わった。


 あの糸のようなぐるぐるを、止める。

 散らす。


 火を、掻き回すように……。


「うう……っ」


 変な声が出た。

 糸は。


 ぐるぐるに絡み合った糸を、ほどくイメージをした。するとその通りになって、1本、また1本とほどけていく。

 火の中心から離れた糸は枯れて崩れるように空中で霧散していく。

 そうしてやがて。


「…………はあっ。は……」

「素晴らしい……!」


 火は、糸が無くなるごとに小さくなっていって。

 消えた。


「ふぅっ。………はぁ」

「愛歌さまっ……」


 くらり。

 膝を付く直前で、背後で見ていたメリィが駆け寄ってくれた。肩を支えてくれた。


「……できた……!」


 私は、高揚していた。自分の意思で。魔法を。今。『破魔』を使って。その通り消した。

 自分の能力を使って。


「ふむ。愛歌さま。大成功です。お見事でございます」

「ありがとう……はぁ。ございます……っ」


 疲れた。この疲労感は凄い。全速力で走った直後みたいだ。

 けど、今回は気絶しなかった。これは進歩だ。


「今日はこのくらいにしておきましょう。今回の解説と次のステップは、明日ご説明いたします。ゆっくりと疲れを癒やしてください。よく食べて、よく眠るのですよ」

「はい……っ!」


 これは、魔王さまから言われてることだから。私の旦那さまが、望んでいることだから。絶対に、修得する。完全に使いこなせるように。


 私の、役割だから。

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