第13話 家族の会食

 夕食。

 今日はバクラさんとキーラさんが帰ってきたということで、王族だけの会食をするらしい。


 私も含めて。


「外交ですか?」

「ええ! ワタシは主に外国との交渉事を担っております! 昨日までも、友好国へ外遊していたのですわよ! バクラ兄さまと合わせて、ヴァケット領の『要』なんですのよ!」


 外交官。いや外務大臣かな。凄い。


「それと! ワタシは『義妹』なんですから、敬語は不要ですわ! 新しい姉さま!」

「新しい……」

「ええ。愛歌姉さま!」


 ねえさま!

 愛歌ねえさま……!


 あー。

 好き。こんな美少女に。


「姉さま? なにか垂れていますわ」

「あっ。いや……。分かった。よろしくね、キーラさん」

「もう。『さん』も不要ですのにーー」


 会食場は畳の敷かれた、これまた広い部屋だった。高価そうなお膳が、五つ。


「愛歌姉さま、ワタシの隣にいらして?」

「駄目ですキーラさま……。愛歌さまはゴートさまのお隣です……」

「えーーケチメリィ」

「わたくしの問題ではありません……」


 既に、魔王さまは座っていた。私はぷりぷり文句を垂れているキーラさんから申し訳なく離れて、隣のお膳に、ちょこんと座った。


「もう挨拶はしたのか。手間が省けたな」

「はい。でも吃驚しました。魔王さまにご弟妹ていまいが居るとは」

「驚かせようと思っていたのだ」


 ああ。優しい低いイケボ。耳が洗われる。エヘヘへ……。


「さて集まったな」

「!」


 魔王さまのひと声で、場がぴしりとなった。バクラさんもキーラさんももう席に付いている。


 残ったのは、ひと席。


「……ゴート。ベラはまだ出て来ないのかよ」


 それを見て、バクラさんが言った。


「ああ。まあゆっくり待とうと思う」

「ベラ?」

「ワタシ達の妹ですわ。バフォメルト家の末子ですわよ」


 訊くと、キーラさんが答えてくれた。

 そうなんだ。

 あとひとり、家族が。


「ベラは色々あって、部屋から出て来ないんですの。……引き篭もりなんですのよ」


 引き篭もり……。


「ベラのことはまた今度でも良い。打ち解ければ愛歌とは仲良くなりそうだと俺は思っている。……今回はふたりに愛歌の紹介と、ふたりの無事の帰還を祝おう」

「おう」

「はーーい」

「……はいっ」


 徳利にお酒が注がれた。ここには私達と、侍女悪魔が待機しているのみ。魔王の家族の、団欒。

 料理は、メインはお刺身だった。ふたつある漁村で獲れたもので、魔界のお刺身だ。楽しみだ。


「乾杯」

「かんぱーーい!」


 私はこの家族の、一員になるんだ。






★★★






「えっ! 人間って100年も生きるのか!?」

「まあ、長生きな人は……。え、魔族は違うんですか?」

「オレらは余裕で200年とかいくけど」

「えっ!」

「いや、人間は30年くらいで死ぬって聞いたから……なあキーラ?」

「ああ、それ普通に嘘ですわ」

「てめえ!」

「オーーホッホ!」


 話は弾んだ。

 『人間ってそうだったのかトーク』と、『魔族・魔界ってこうなんだぜトーク』が盛り上がった。楽しい。


「ほらバクラ兄さま! 『愛歌姉さま』って呼ばないと!」

「ぐっ。……む……」

「いや、そんな無理しなくて良いですからっ」


 そして、キーラさんがバクラさんをからかう。バクラさんもお酒が入って楽しんでいるようだった。一番楽しそうなのはキーラさんだけど。


「ウチは、あとベラで全員だ」

「!」


 ぽつりと、魔王さまが呟いた。


「父親は俺達が子供の頃に戦死。母親はベラを産んですぐ病死。……バフォメルト家だけじゃない。ケプラホルンという魔族が、俺達家族と、メリィを残すのみなんだ」

「えっ……」


 メリィを見た。私の背後で待機している。

 種族が。つまり私達の世界でいう、『人種』が。

 絶滅の危機。


「勿論、俺達次第で再興はできる。……だがまあ、それは個人的な願いで、二の次だな。最優先は、ヴァケット領の安全と発展だ」

「…………」


 プレッシャーだ。私はそんな所に嫁いだんだ。


「――ですから。愛歌姉さまもお気軽に蹴り飛ばして良いですからねっ?」

「えっ? なに?」

「まあ」

「いや変なこと教えんなキーラ!」


 けど。

 当事者達はあんまり気にしてなさそうだ。 


「あははっ」


 面白くて、楽しい家族だと思う。

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