第12話 魔弟と魔妹

「あっ」


 お風呂から上がって。さっぱりした所で城の中を歩いていると、朱色の髪と2本の巻き角が見えた。急にテンションが上がってきた私は、小走りで彼に向かっていく。


「魔王さ――」


 声を掛ける途中で、その彼が振り向いて。


 別人。


 そう言えばお召し物が着物じゃなくて甲冑? のような……。心なしか髪色も魔王さまより赤黒いような……。


「あん? 誰だオマエ。ここは王族以外立入禁止だぞ」

「まっ!?」


 誰だ!?


「って、人間!? ってことは……!!」


 めちゃくちゃ睨み付けられた。うわー。私より目付き悪いかもこの人。

 その直後、『城内に人間がいる』理由に思い至ったらしい彼は、飛び退いて廊下の角にシュババと隠れた。


「えっ」


 逃げた? 私から?


「あら。お帰りなさいませ……魔弟まていさま」

「まていさま?」


 追い付いてきたメリィが、彼に言った。彼は角からひょっこりと顔だけ覗かせた。


「メリィ!? お前、大丈夫か!?」

「? 何がですか……?」


 灰色の肌。金色の瞳。ケプラホルンだ。魔王さまに似てる。けど、ちょっと魔王さまより荒々しい感じかも。


「何がって……。人間は魔族の近くに居ると魔力に毒されて死ぬんだろ!?」


 そう叫んだ。

 ああ、だから私を見て退避してくれたんだ。


「えっ。そうなの?」


 メリィに確認する。


「いいえ……。そんなことはありませんよ……。それは普通の人間の話で、それも別に近くに居たくらいで死に至るような致命的なものではありません……。騙されましたね……魔弟さま」

「はぁっ!?」

「わたくしやゴートさまはもうずっと愛歌さまと一緒に居ます……。『破魔嫁さま』は魔力耐性があるのですよ……」

「なにっ…………!」


 それを聞いて、彼は恐る恐る姿を現した。


 甲冑だ。カッコイイ。重そう。帯刀はしてない。お帰りなさいませってメリィが言ってたから、今日帰ってきた……?


「……えっと。宵宮よみや愛歌あいか、です」

「…………おう。オレはバクラ・バフォメルト。魔王の弟で『魔弟』だ」


 弟!

 おとうと!


 おとくん!


 魔王さまの!

 つまり、私の……義弟?

 うおお。


「バクラさまはヴァケット領の国防を担われております……。今も視察遠征と魔物討伐の帰りです……」


 国防。

 軍人さんってことかな。


「………………」

「…………?」


 めっちゃ見られてる。ジロジロ。


「……まあ、ゴートの選んだことだ。オレからは何もねえよ。……魔妃さん」

「えっ」


 にやりと不敵に笑いながら。私を脅かそうとしてるみたい。でも、目付きの悪さは鏡で慣れてて、その姿は魔王さまで慣れてて……。


「オーーホッホッホ! はいどーーん!!」

「ぐああっ!?」

「!?」


 うおっ。

 急に、バクラさん? の顔が横にスライドした。高速に。

 横から何かが飛んできて。どーーん……って。


「こーーらバクラ兄さま? か弱き人間のむすめを脅かすんじゃーー無いですわよ?」


 ふわり。

 長ーい、紅色の髪。灰色の肌。黄金の瞳。

 小さめな黒巻角。

 着物だけど、裾が短くて太ももが見えてる。


 また、ケプラホルン。の……少女?


「うごごぉ……! てめえ! 何すんだいきなり!」


 吹っ飛んで壁に激突したバクラさんが飛び上がって吠える。

 彼女は、手の甲を顎に添えて高笑いをした。


「オーーホッホ! 戦場では『血に染まる肉食のいくさ山羊やぎ』とまで言われる兄さまも、お城へ帰れば隙だらけですわねえっ!」


 血に染まる肉食の戦山羊。

 二つ名凄い……。


「お帰りなさいませ。魔妹ままいさま」

「ままいさま……」


 メリィがまた頭を下げた。この子も、魔王さまの家族、なのか。


「ええ! ご機嫌ようメリィ! そしてーー!」


 バッチリ。

 目が合った。

 うわ、美少女だ。顔の造形がエグい。目は私の倍くらい大きくて、ほっぺたが柔らかそうで。

 自信満々なことが窺える表情で。

 あと、私より身長低いけど、胸は大きい。良いなあ。


「初めましてねっ!? ワタシはキーラ・バフォメルト! ゴート兄さまやそこの無様なバクラ兄さまの妹! 『魔妹』ですわっ!」

「よ、宵宮愛歌……です」


 勢いが凄い。キーラさん。

 妹。

 カワイイ。


「…………」


 そして、ジロジロと見られる。これ、ケプラホルンの本能なのかなあ。


「ふーーん。貧乳ですわね!」

「うっ……」


 ガーン。

 私の気にしていること、第一位、目付きの悪さ。


 第二位、胸。

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