第11話 肌色の付き合い

 私がチョロチョロして視界に入って目障りになったらいけない。魔王さまの仕事の邪魔をしないように、そのままこっそりと講堂を後にした。


「愛歌さま、汗が」

「えっ。うんまあ、暑いしね」

「水分をこまめに摂りましょう。荒沙羅でよろしいですか……?」

「うん。それ好き」

「それと。夕食前に汗をお流ししましょう。浴場へご案内いたします……」

「お風呂っ」


 よく使う、行く場所は覚えないと。ここは私の家……なんだから。

 平日の城は、女中さんくらいしか見掛けない。城勤めの役人さん達は皆講堂か、それぞれ執務室のような部屋が割り当てられているらしい。勿論私や魔王さまの寝室がある階や区画には、女中さん以外は入ってこない。


 けど、案内された浴場は。城の1階にあって。つまり『皆が入れる』区画だった。


「他にも人が居るの?」

「休日の侍女悪魔や、役人も利用します……」

「皆で入るんだ」

「不思議ですか……? これが魔界の入浴です……。お背中お流しいたしますね……」


 広い。

 もうめっちゃんこ広い。ファミリーに人気の温浴施設って感じ。脱衣所から浴室から浴槽から、全部広い。


「温泉?」

「いえ……。全て魔法で」

「へえーっ。凄い」


 つるつるに磨き上げられた石の床材。ヒノキっぽい木製の浴槽。あっちにはサウナ室まである。


「あっ。先生」

「あら愛歌さま」


 広い白湯に、チェルカ先生が入っていた。服着てても巨乳が分かったのに、今はもう、爆乳だ。着痩せしてあれだったのか。


「チェルカさんも仕事上がりですか……?」

「ええそうよメリィさん。今日入ってきた新人の侍女悪魔の教育でした」


 他にも、5人くらいが先に入っていた。青い肌、黄色の肌、赤い肌……。本当、色んな種族があるんだなあ。


 メリィにめちゃんこ気持ちよく洗ってもらって、白湯に入る。


「……熱っ! うおおっ!」

「あ。……人間には熱い温度かもしれません。こちらへ。ぬるま湯もございます……」

「メリィさん。人間は『弱い』ことをお忘れなくね」

「ですね……」


 めっちゃ熱かった。火傷しちゃう。これが魔界のお風呂。溶岩みたい。駄目だ私これ。


「…………どうされました……?」


 ぬるま湯に浸かって、ひと息つく。私達の後に入ってきた人の肌は、緑色だった。


「…………なんか。私だけこんな肌の色だから、変かなって」

「? わたくしも、わたくしだけ灰色ですが……」

「えっ。……あっ」


 変。


 人間は私だけだから。そう思ってた。

 『人間』と『魔族』で、分けてた。


 『人間の肌色』と、『魔族全体』で、分けてたんだ。


 魔界には、色んな色の人がいる。

 

 だってだけだった。


 メリィや魔王さまは、ケプラホルンという種族。


 私は人間という種族なだけだった。それに今気付いた。


「……そうだね。私が自意識過剰だったんだ」

「分かりますよ……。人間の世界では肌の色が戦争や侵略の理由になったことは知っています……。人間に肌の色の話題は繊細で敏感なのだと、チェルカさんから聞いたことがあります……」

「……うん。けど、気にしなくて良いね。魔界でそんなこといちいち言ってたらキリが無いし。私も気にすることないや」


 メリィの肌は、つるつるでさらさら。きめ細やかで美しかった。

 ほどよく筋肉も付いてて、スタイルも抜群。羨ましいほどに。


「先程、洗わせていただいている際、痛くはありませんでしたか……?」

「うん。大丈夫。優しく洗ってくれてありがとうね」

「……はい」


 ざばりと、先生が湯船から上がる所が見えた。ボン・キュッ・ボンだ。お尻も大きい。脚長い。

 魔族は皆スタイル良いのかな。それとも彼女達の努力?

 私も努力しないと。


「では、私はこれで上がります。お先に失礼いたします。愛歌さま」

「あっ。はあい」

「それとメリィさん。一垂れですよ。しっかりなさい」

「……あっ……」


 立派な魔妃への道は長そうだけど。

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