第3話 戦闘魔族ケプラホルン
ついこの前のように思い出す。
「良い目だ。お前にしよう」
その日のお見合いで。ひと目見て、彼がそう言った。あの時も私は、恥ずかしさと彼の美しさで顔が真っ赤だったように思う。
こんな綺麗な人に娶られるなら、と。
今までコンプレックスだった『目』を、褒められて。
それに、ウチは特別裕福という訳じゃない。外交政策であるこの制度で結婚すると、国から手当があるのだ。加えて、相手側が払う仲介料や紹介料の一定割合もウチに入る。
大金だ。
ふたりの弟を、大学まで行かせることができるようになる。
父が仕事で怪我をして収入が減っても、ある程度問題なくなる。
ありていに言えば、私は『売られた』ということになる。
運動ができる訳でもなく、勉学も中途半端。遊郭で稼げるほどの容姿でもないし芸もできない。家も一般で、嫁に欲しいと言ってくれる所は無い。
私の家、宵宮家的には。
魔王さまが何故、私を選んだのかは分からない。けど。
宵宮家的には、私の『使い道』はここしか無かったと言える。
★★★
「
「…………うん」
「魔界だと、人間は差別されてるって聞いたんだけど」
「そうなのですか?」
聞きたいこと、私だって沢山ある。このメリィと、まずは仲良くならないといけないと思った。私が平穏無事に、ここで暮すために。
「……確かに偏見はあると思います。私達魔族も、人間のことをよく知らないのですから……。けれど、差別については……。個人差があるとしか言えませんね……」
「……私が『人間である』ことで、この結婚に反対しているような人とか」
「……ああ、居ますね。いずれもゴートさまの部下の方でしょう。それと、ヴァケット領外からこちらへ移り住んできた魔族達。人間を食事にする文化のある国も魔界にはありますから……」
「…………!」
食人文化。
やっぱり、魔族は人間を食べることがあるんだ。
噂は嫌というほど聞いていた。大半は憶測だろうと思っていたけれど。
食人の為に、この制度を使っているのだとか。力で支配できる従順な奴隷が欲しいのだとか。
魔王さまがそうではなくとも、そう考える人が領内に居る可能性はあるんだ。
「ああ勿論、そんなこと、基本的には起こり得ません……。わたくしが護衛も兼ねていますし、何よりゴートさまのご機嫌を損ねるような真似をする不埒者は城内には居ないでしょう……」
護衛。
その言葉で、一気に緊張感が走った。段々と、現実味を帯びてくる。
ここが、
「ご心配ですか? わたくしはゴートさまと同じ『ケプラホルン』という戦闘魔族の出身です。ゴートさまはわたくしの戦闘能力を買ってくださり、この世話役の任を与えてくださつたのです……」
「……そうなの?」
メリィは右手を自分の胸に当てた。自信が垣間見える。戦闘魔族という種類があるんだ……。
「はい。例えば……。他の魔族には修得が困難な魔法を使えます。愛歌さまの心の平安の為に、今お見せいたしましょう」
「えっ」
その右手を、前方へ翳した。手の平を上に向けて、胸の高さで固定した。
「この手をよく、ご覧くださいませ……」
「あっ。危なくない……?」
「問題ありません……。そういった類いの魔法ではありませんので……」
じっと見る。
ごくりと喉が鳴る。魔法。見たことは無い。いや、魔族の人達は普段から普通に使っている筈だけど。日の下で今まで生きてきて、魔法と接する機会なんかなかったから。
「………………」
じっと。
視る。
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