第1章ーⅠ
「充希、春休みだからってダラダラしすぎ。もうお昼近いわよ。」
洗面所から出ると、ため息混じりの声が聞こえた。
「10時ってついてたらギリ朝だから。なにか食べるものある?」
「そこのクロワッサンなら食べていいわ。もう出るけど、お昼は冷蔵庫に入ってるから温めて食べて。」
「はーい。ありがと、お母さん。」
化粧を済ませ、慌ただしい様子で出ていく母を見送りながら、私は言われた通りクロワッサンを食べ始める。ついでに牛乳も入れた。これだけのことですごく丁寧な暮らしっぽさが出る。
私、藤野充希は、几帳面な性格だと言われることが多い。提出物に追われることなく全てきちんと終わらせるし、部屋も常に綺麗だ。多分、生活に付随する必要最低限のタスクをこなすのが得意なのだろう。高校生としての義務だから勉強はある程度するし、家を追われないために家事も手伝う。いや、家を追い出されるような危機に瀕しているわけではないけれど。
逆にいうと、生きていくのに不必要なこと、例えばメイクとか、ファッションとか、流行りの音楽とかには興味が薄いし、苦手だ。メイクは身だしなみとしてそのうち必要になるからいつかは覚えるけど、それだって恐らく最低限のものだけ。それを超えたもの(ブルベにイエベ、カラコンとかブランドもののコスメとか)には至らない。
こういうことを言うと、それらを好きで全力投球している子たちを見下しているのかとか、逆に劣等感があるのかとか言われるけれど、決してそんなことはない。ただ、向き不向きがあるだけだ。私はそういうものに興味が持てなくて、あの子達にはそれが生きがい。ほんと、それだけのことなのに。なぜ人はそこに、納得できる劇的な理由を求めるのだろう。めんどくさい。
明日は始業式で、高校2年を共に過ごすクラスが発表される。今年こそ、誰からも目をつけられず、穏やかに1年を終えたいものだ。
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