せかいでいちばんだいすきな

暮瀬 夢烏

プロローグ

最初の違和感は、目が合わなくなったことだった。

朝起きて、顔を洗い、鏡に映る顔を見る。習慣と言うのも躊躇うほど、勝手に身体がする動き。

そこに、「あれ?」といった感情が挟まれることなど、今までなかった。

鏡の中の自分が、少し左を見ている。いや、私から見て左だから実際は右か。

私は鏡に映る目を見ているのに、向こう側の私と目が合わない。こんなことがあり得るのだろうか。

しばし考えていたら、気付かないうちに目線が元に戻っている。いつの間に。まだ夢の中にいるのかもしれない。軽く頬を叩き、気のせいだろうと思って洗面所を出た。

今思えば、これが始まりだったのだろう。苦しくも実りの多かったあの日々の。

……もっともそれに気がつくのは、まだまだ先の出来事なのだが。

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