状況整理と作戦会議
「いやぁ〜これね、まじで下手したら死ぬよ。」
俺、ショウマは見舞いに来てくれたジュードとルイーザと共に担当医から容態について一通りの説明を受けていた。
背が小さく、小太りで、なんだか気の抜けているような雰囲気の医者が放った衝撃的な一言目に思わず顔面蒼白になる。
「えっと、そちらの黒い人、あなたはぁ〜…お兄さんかな…?」
「僕がお兄さん…?」
ジュードが面食らったような顔をしている。
「ん〜。それからぁ〜、あなたがお母さん?」
素っ頓狂な声をあげながら医者が目を向けたのは、ルイーザだ。
「お…お…かあ……さんンン??」
ルイーザが引きつった笑顔を医者に向けている。まるでそんなに老けて見えますかと言わんばかりの顔だ。
二人の気持ちもわかる。ジュードと俺は全然似てないし、ルイーザと俺はそれぞれ23歳と14歳な訳で、どう考えたって親子には見えない。
「まぁ、あのね。とりあえず君ね。どんな技術かわからんけども、それ使うのもう止めなさい。」
医者の目だけは真剣そのものだった。
「念の為全身検査したんだけども、驚きましたよ。後ろのお二人は普段から魔法を使うって事だったから、ある程度知ってるとは思いますけどもね。魔法っちゅうのは通常体から魔法陣へ魔力を流し込んで発動するんですが、魔力は体を、いわゆるパイプのようなものを伝って外に出ていくんですね。」
医者は身振りを入れながら説明する。
「で、魔力量っちゅうんは将来的な下限と上限もある程度生まれた時に決まるもんなんですよ。で、魔力量が増えるにつれて、そのパイプも太くなってくんですわ。だからパイプ…我々は魔力管と呼んでるんですが、その太さを見れば大体の魔力量も分かるんですね。」
「そういう訳だから、残念ながら魔法が全然使えない子っちゅうんはいる訳で、極端に魔力管がほっそい子もいるんですが…… 君、ショウマ君はそもそも魔力管自体が存在しないんですよ。私はこんなん初めて見ました。聞いたことも無い。」
「だから君が使ってるのは魔法じゃないと断定できるんですが、だとしたらそれ、何を使ってそうなったっちゅう話なんですよ。そんな筋肉がズタズタになるような魔法はもちろん、そういう力なんて少なくとも私は知らないもんで…ちょっと危ないんと違うかな…。」
まぁ、俺とジュードは概ね知っていた話な訳だが、そもそも魔法自体使う事が出来ないとは思わなかった。正直ちょっと使ってみたいとは思っていたので、俺は少しだけショックだった。
「そんな状態になったの、ちなみに何回目かな?」
医者の心配そうな目を見て俺は答える。
「三回目…です。」
「あぁ…だろうねぇ。初めてじゃないとは思ったよ……。治癒魔法も絶対に完治させられるわけじゃないから、これ以上そんな状態を蓄積させていくようなら、本当に───
治らなくなるよ…?」
─1─
「随分脅されたじゃあないか〜、ショウマ坊。」
ルイーザが俺の肩に手を回してガッチリとホールドするように体を引き寄せてきた。
俺達は病院の一階にあるカフェで軽食を取っていた。ケイトは目を覚ましたが、もうしばらくは絶対安静という事なので、今は病室で眠っている。
「あ、ま、まぁ…でも…ジュードと訓練した通りに使ってれば大丈夫なはずだから…。」
緊張で顔を赤らめながらそっぽを向いて答えた俺を見てジュードが茶化すようにルイーザを諭した。
「止めてやれ、こいつは女性に耐性が無いんだ。そんなにくっつかれたら折角塞がった傷口が開き出すぞ。ましてやお前みたいな服装をしていたら余計な。」
ルイーザはさっと腕を離し、またもや茶化すようにして俺をからかう。
「あぁごめんごめん、この子反応が可愛いもんでつい…。」
「でもさぁ?そんなんでケイトちゃんに告れんの?」
生まれて初めて口に入れたカフェオレを吐いた。
「な、なななな…何をおっしゃいますか?」
ルイーザは逆に何を言っているんだという顔で答える。
「え?だって好きなんだろ?」
「ルイーザ…!」
ジュードが何かを遮るように彼女を制した。
(馬鹿者…!あの日見た事は口を噤んでおくと決めただろう…!)
(いやぁ…でもこの子あとひと押しケツ叩いてやったら絶対上手くいくって…!)
(楽しむな…!いいか!お前は恋愛小説の読みすぎだ…!)
「二人とも、何話してんの…?」
「いや!気にするな…!」
「なぁんでもない!」
二人が同時に反応を返す。ホントに仲良いんだなぁ、この二人。
─2─
「さて、では一旦情報整理と今後の動きについて話し合おうか。」
ジュードが議長を務め、俺達三人は今後の方針について話す事になった。
「まずは状況の共有か。あたしは騎士団長から受けた任務で、禍津の分霊と影の正体について調査する事になった。出来ればあの着物の女性にも接触したいんだけど、調査するにもまず手掛かりが欲しいとこだから、出来ればこのままあんたらの旅に同行したい。いいかな?」
「それはもちろん…!ルイーザが一緒なんて心強いよ…!」
「奴らと相対するにあたって、お前の力を借りられるならこちらとしても願ったり叶ったりだ。そういえばショウマ、お前に伝えることがある。」
「着物の女性から、次の目的地はトレガンの街にしろと。あそこなら多少は会話出来るかもしれないと言っていた。」
「着物の女の人から…?」
「あぁ。お前は意識が無かったかもしれないが、僕達を消えゆくあの町から救ってくれたのはあの女性だ。お前が記憶の結晶で会ったというのも、恐らくあの女性なんじゃないだろうか。」
俺はジュードにその女の人の詳しい身なりを聞いてみたが、確かに特徴は一致する。だとしたらトレガンの街に行くという情報は信ぴょう性が高いだろう。
「それじゃあ目的地は決まったな。あとは、今俺たちが知るべき情報の整理をしようか。」
俺達は互いに知っている事と知らない事のすり合わせを行い、情報の共有をした。
───俺達が最も知りたいのは、無論帰る方法だ。その為の近道は、やはり記憶の結晶を辿って着物の女の人に接触する事。
───次に知りたいのは、禍津の分霊と
だとすれば、そもそものダメージソースの問題だと考えられる。
禍津はシャドウの正体について、俺の記憶に刻み込まれた恐怖心、精神的苦痛、それらの感情を固めて作り出した化け物と言っていた。だから俺が触れた瞬間に形の無い純粋な恐怖心だけが流れ込んできたのだろう。そのせいで俺は根拠の無い恐怖に怯え、蹲り、一度は戦意を喪失した。
そして、ケイトが傷つく原因となった。
「これは推測だけど、シャドウにダメージを与えられるのは───」
俺は左手にいつもの長剣を再現した。ジュードはその意味を察したようで───
「お前の力だけ…ということか。」
俺は長剣をしまい、話を続ける。
「うん。この力の正体についても、結局着物の女の人に聞かなきゃわかんないんだけど、使ってて何となく分かってきたことがあってさ。この力、俺の感情に大きく左右されてるんだ。」
俺の力が怒りで暴走したのが何よりの証拠だ。感情というのは人間のパフォーマンスに影響を及ぼすし、それは魔法も同様だろう。だが自分でもはっきり分かる。あれは感情的になったからとか、そういう次元の話じゃない。明確に力そのものが暴走していた。
キサノ村で力の訓練をしていた時にも感情を抑えるようにした時は上手く力が制御できそうな感じがしたので、この力はやはり感情に起因するモノなのだろう。
「シャドウの正体が俺の負の感情から作られてるんだとしたら、それを倒せるのは俺の正の感情…って考えるのは流石に安直すぎる…?」
ルイーザは俺の意見を明確に肯定した。
「いや、悪くないんじゃあないかな。シャドウの出自を考えると自然だと思うね、あたしは。」
「仮説が正しいかどうかも含めて聞けばいいさ。シャドウへの対処法は正しいか、禍津への対抗手段は何か、この世界から脱出する方法は何か。最低でもこの三つは知りたいところだが───」
ジュードの懸念は俺も抱えている。彼女と話せる時間はそんなに長くなさそうであるという懸念。残る結晶はトレガンを除けばあと一つ。今までの傾向から考えて必ずしも彼女に接触できるとは限らない。都合良く三つ全ての情報を得られれば良いが…。
「最後にショウマ、お前に確認したい。シャドウはお前がとどめをさせるよう立ち回るとして、お前は大丈夫なのか。」
ジュードがしっかりと俺の目を見て質問する。
───そうだ。問題はそこだ。
「俺は…。」
俺の目が、斜め右から下方向へ泳いでいく。
───大丈夫だ、問題ないよ。そう答えたかった。
でも出来なかった。俺はあの恐怖心と再び相対した時、その感情を超えて己の剣を振るうことが出来るという自信がなかった。
この日の作戦会議はそこで終了し、俺は病室に、ジュードとルイーザは仮住まいへと戻っていった。
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