一の記憶 -起源-



 ─1─


 俺とジュードの旅が始まって丸一日が経過した頃。


 俺達は宿泊していた町を出て、ジュードが最初に発見したという記憶の結晶を目指し、辺り一面を田畑と草原が覆う田舎の街道を歩いていた。


 一つ目の結晶は、森の中にひっそりと佇むようにして緑色の光を放っていたという。


「ここから目的地まではさほど距離は無い。直に到着するだろう。」


「そ、そっか。近いんだ、なら良かったなぁ…。」


 俺は何となく会話が続けられなくて気まずい空気を作り出してしまっている。こんなに人との会話に苦手意識を持ったのは初めてだ。俺はこのジュードという人間を知っているが、画面越しではなく直接対面して話をすると何となく威圧感と壁を感じる。



(なんだろう…何話したらいいかわっかんねぇな…。)


 ジュードはそんなショウマの姿を見て訝しげな目を送ったが、何かに気がついたようにすぐに視線を前に戻して口を閉じた。



 ───それから俺達は一言も言葉を交わすことは無く…そのまましばらく歩き続けた。



(こんな調子で無事に旅を終えられんのかなぁ…。)




 ─2─


「到着だ。」


 ジュードが森の中で足を止めたが、目の前に広がる光景に俺は思わず後ずさりした。


「あ、あれって……化け物…?」


 褐色の肌をした、頭に角を生やしているような生物が目の前に三体現れたのだ。身長は小さいがまるでゲームで見るゴブリンの様な姿をしている。


 怯える俺に対して至って冷静なジュードは左手でサーベルのような長剣を、右手でナイフのような短剣を抜き、短剣を逆手に持って構える。


「大丈夫だ、お前は下がっていろ。すぐに終わる。」


 ジュードはそう言うと腰を落として結晶の周りに蔓延っている化け物達へと突撃した。


 ───ギャア?


 ───ギャ!


 ───アギャギャギャ!!!!


 化け物達がこちらの存在に気がついて臨戦態勢を取るが、彼らが気がついた時には既にジュードは左手の長剣の切っ先を1番手前にいた化け物に向けていた。


「ふん…!」


 ジュードは容赦なくその刃で小鬼の首元を右から切り裂いていく。


 一瞬で首から上が落ちた化け物の姿を見て、後方の二体が興奮した様子でこちらへ突撃してきた。



 ただ怯えているだけの俺を他所に、ジュードは躊躇なく残りの化け物の元へ飛び込むと一瞬のうちに彼らを片付けていく。



 踊るような見事な剣技で魔物を掃討していく彼の姿は、間違いなく俺がゲーム機で操作していたジュードそのものだった。



「終わったぞ。」



「あ、あぁ…ありがとう…助かった…。」


 ジュードは剣をしまうと、俺に目の前の結晶に触れるよう促した。


「それに触れてみろ。お前が見たかった物が見えるはずだ。」


 安全を確保してもらった俺は、恐る恐る目の前の結晶に触れてみる。その瞬間、記憶の映像が頭の中に流れ込み、俺は自分の過去を追体験する事となった。


 ────────────────────


 四人の少年が、友人の家で遊んでいる。

 四人がスペースを確保して座るには少し狭いその部屋で、俺と都田はゲームで対戦をしていた。


「ッあぁぁぁぁー!!!畜生!なんで!?なんでだよ!!もう一回だ!もう一回やれ!!」


 負けた事が悔しくて、狭い部屋で叫んでいるのは紛れもなく俺だ。


「仕方ないなぁー…あと一回だけだよ…?」


 少々呆れたように俺のわがままを飲んでくれたのは都田である。


(そういや小学生の時、何回やっても対戦ゲームで勝てなくて、何度も都田と勝負したっけ。)


 俺は自分の記憶を見て少し不快感を覚えた。


(なんか、ホント自分勝手だったな、この時。それでもあいつは俺のワガママに付き合ってくれてたっけか。)


 都田と俺と、友人達の平和な日常。そうだ、これこそが俺の知っているあいつの姿だ。


 一体いつから、この幸福が崩れてしまったんだろう。



 ────────────────────


「はっ……」


 ごく短い記憶だったが、これは間違いなく俺の記憶だ。


「どうだ、やはりお前自身の記憶だろう。」


「あ、あぁ…これは間違いなく……俺の少し前の記憶だ…。確か一昨年の夏頃だったか…。」



 確かにジュードの言う通り自分の過去の記憶を見る事は出来たが、この世界についての事は残念ながら一切わからずじまいだ。あわよくば自分の記憶に周りを敵に回してしまった原因が眠っていないかと期待していたが、それも無い。


 ジュードは期待外れの表情を浮かべる俺の様子を察したようで


「案ずるな、これはほんの一部にすぎん。もっと重要な記憶は他にある。」



ジュードによって発見済みの記憶の結晶はあと二つ。


三つの記憶を全て目にした時、この世界と自分の境遇について少しはハッキリするのだろうか。

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