導く者
「ジュード、ケイト。ごめん。」
─1─
【葛藤の記憶】を見終えた俺は、自身の弱さを散々見せつけられた。自分自身にボコボコに殴られたような気分だった。
「俺、自分の事しか考えてなかった。チームでやってるって意識が全然無かった。頑張ってんのは自分だけじゃないのに。皆で頑張ってんのに。なのに…俺は自分の憤りを一番ぶつけちゃいけない人達にぶつけてたんだ。」
「さっきだってそうだ。二人は俺の為に頑張ってくれてんのに…俺は二人に当たってた…。」
(そんな俺が副部長になって…本来は俺が引っ張らなきゃいけないのに…俺は皆に当たり散らしてただけだ………俺には上に立つ資格が無い………)
人としての自信を失った。そんな俺に向かってなだめるようにケイトはゆっくり口を開いた。
「あなたは、必死だったのよね。」
ケイトの口から発せられるその声には、何だか包み込むような安心感があった。
「私も同じだったから…あなたと。だから分かるわ。でもね、あなたはまだ間に合う。」
ケイトは少し泣きそうな声で続けた。
ケイトの声に、その温もりに、心の痛みが少し引いていくのを感じた。続いてジュードが俺達に話しかける。
「ショウマ、ケイト。覚えておいてくれ。これからの旅は今回のように辛い事や苦しい事が多いはずだ。決して楽しいことばかりじゃないだろう。だからこそ苦難は一人では無く、僕達三人で力を合わせて乗り越えていかなければならない。その為にも他者に対する敬意と理解の気持ちは持て。その気持ちが乗っているのとそうでないのでは、辛い時に吐く言葉の色も全く違うはずだ。」
ジュードは確かな実感を持って言葉を締めくくった。
「二人はこれから必ず強くなる。だからこそ、己の身勝手で振るう力は必ず誰かを傷つけるという事をよく覚えておくんだ。言葉と同じようにな。」
───お前達は…僕みたいにはなるな。
ジュードの声はいつもよりも優しかった。
包むような優しさで癒してくれたケイトと、力強くも励ますように元気づけてくれたジュードの声。俺は長男だけど、何だか自分に兄と姉が出来たみたいで少し嬉しかった。
「うん…ありがとう、ジュード。」
─2─
記憶の結晶への用事を済ませた俺達は、改めて背後にある巨大な神殿に体を向けた。
引き続き周りへ注意を向けながら、警戒を解くことなくゆっくりと神殿へと近づいていく。
「妙だな、静かすぎる。」
ジュードの言う通りだ。静かすぎる。今までは記憶の結晶の周りを取り囲むようにして陣取っていた魔物が今回は一匹もいない。人の気配がしないのは最もだが、今回は地形的な理由で何もいなかったのだろうか。
神殿の目の前に到着すると、入口にはドアや門の類が一切無く、外から内部の様子がハッキリ見える事がわかった。ケイトに輝晶灯を借りて内部を照らすと、奥には石版のような物体が置かれており、その左右には筋骨隆々で裸の巨大な男性のような像が向かい合うようにして並んでいるのが見える。
「あの奥にある石版っぽいの……なんか書いてあるよな…よく見えねぇけど…。」
石版には何か文字のようなものが掘られている。ジュードは安全を確認してゆっくりと奥に足を進めている。
「少し見てみよう。僕達に関係するとは限らないが…。」
この異質な建物に、俺とジュードは何か関連性を感じていた。無論、自分達とである。もしかしたら元の世界に帰る手がかりになるのではと思い、俺達は石版に近づいた。
「やっぱなんか書いてある。何だろ…ちょっと読んでみようぜ。」
石版の下部は欠損していて読めないが、上から五文くらいまでは問題なく読めそうだ。
俺は文字に光を当てながら内容を確認した。
────────────────────
我、禍津の分霊に対抗する術をここに記す。
禍津、我との争いの後、その力を七つに分けて飛散させた。飛散した分霊、人の子に憑き、その力を蓄えんとする。
我、力を持たぬ人の子の精神を守らんとし、心核にて眠りにつく。
世界の目覚めと共に、彼の者を導く結晶を与える。
我、結晶を媒介とし、可能な限り彼の者へ助言を与えよう。
────────────────────
壊れてしまっている下部分が読めないので、一部不明なところもあるが、それを抜きにしても謎の多い文章だ。
「なあにこれ…全然意味がわからないんだけど…。」
「あぁ…残念ながら僕にも理解出来ん。」
ジュードとケイトは内容を見てもまるで意味がわからないという様子だったが、俺は二人と違い心当たりがあった。
「いや、二人共もう一回よく読んでみてよ。特にこの後半の二文。」
「世界の目覚めと共に、彼の者を導く結晶を与える…。あ、もしかしてこれ…記憶の結晶の事じゃ…?」
ケイトの言う通り、これは記憶の結晶の事を指していると俺は考えた。そして───
「我、結晶を媒介とし、可能な限り彼の者へ助言を与えよう…これはなんだ?僕にはまるで心当たりが無いが…。」
「ジュード、三つ目の結晶の記憶を見た時の事思い出してくれよ。記憶の再生でちょうど世界が出来上がる位の時、着物を着た黒髪の女の人が話しかけてきたろ?」
そう、あの時話しかけてきた女性は、記憶の中で俺に話しかけてきたと言うより、記憶を見ている俺に直接話しかけてきていた。
「着物を着た黒髪の女性…?いや…僕はそんな人物を見た覚えは無いが…。」
(え…?ジュードは見ていない…?)
だとすると俺にしか見えていなかったという事だろうか。
(記憶の結晶には本人にしか見えない部分があるって事か…?)
俺はあの時見た女性が話していた内容を二人に伝えた。
────────────────────
将真、探すん──記──結晶を。
───と、シャドウが───迫って───
この世界は、この力──
君の世界を、変──れ──
────────────────────
断片的でよく聞き取れなかったが、今思えば
「将真、探すんだ。記憶の結晶を」
と言っていたのだろう。他は相変わらずよく分からないが…
「要は、記憶の結晶を通じて俺に助言してくれる人がいる。この石版はその人が残したんじゃないかな?」
「なるほどね。でもさ、今思ったんだけど、記憶の結晶ってリュウゲンの親分が持ってたんだよね?だとすると私が読んだ文がおかしくならない?これだとまるでリュウゲンの親分=ショウマに助言してくれる人って事になっちゃうけど…。」
それについても俺には仮説があった。
「いや、記憶の結晶はその親分が元々持ってた訳じゃ無いんじゃないかな。石版の通りだと、着物を着た女性はこの禍津ってのと敵対してる。って事はだよ───」
「結晶は元々着物の女の人が俺の為に用意してくれてた。だけど何らかの事情でリュウゲンの親分がそれを手に入れてしまった。だから、それを正しい位置に戻す為に、着物の女の人はそれを取り戻して飛散させた。」
そうすると、リュウゲンのノートに書いてあった事とも辻褄が合う。
───彼はそれを見て「邪魔が入ったか…。」と呟いた。私がそれについて尋ねると、彼は「何…旧友の仕業だよ…。」とだけ言って黙ってしまった───
そう書いてあったのだ。つまり───
「リュウゲンの親分が、この禍津ってやつなんじゃないのかな。」
「おぉ…」と感心するような顔で二人が俺の方を見ている。
「ショウマ…あんたアタマ良いわね…!」
「あぁ…僕も素直に感心した。仮説に過ぎないとは思うが、これはかなり前進だぞ。」
俺は少し照れくさくなった…。
「あ、ありがと…。まぁまだよくわかんない部分もあるし仮説に過ぎないけど、でも記憶の結晶を巡ってればまたこの女の人が助言してくれるかもしれない。この人に聞いてみればきっと元の世界に帰る方法も分かるかもしれねぇよな!」
雨降って地固まる。だろうか。俺たちは確実に前進している。
「よし!そうと決まれば次の結晶目指してゴーだ!!行くぜ二人とも!!」
俺が力強く拳を天に掲げた直後、何者かが俺達に声をかけてきた。
「やっぱり…あんただよね!ジュード!」
不意に自分の名前を呼ばれたジュードは警戒心を最大まで引き上げ、声の方向に構える。
「誰だ!?」
さっきまで十分警戒していたにも関わらず、ジュードに気取られずにいたこの人物は誰だ。只者では無い。
「あぁ、そんなに構えないどくれ…!あたしだよ!あ!た!し!」
ジュードはその声に聞き覚えがあった。まさかと思い、その人物の接近を許したジュードは、声の主の女性を見て驚愕した。
「お前は…!」
声の主は、ジュードがかつて共に旅をしていた仲間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます