現れた絶望
予期せぬ出会い
「久しぶりだね!ジュード!」
「お前は……ルイーザ!!」
─1─
ルイーザと呼ばれたその女性は、暗がりからゆっくりとその姿を見せ、こちらにその正体を現した。
短髪で少し癖のある髪はまるで燃えるような赤色をしていて、肩から腕までを露出させるインナーのような黒い服とホットパンツは、彼女の鍛え抜かれた肉体を存分に披露している。
彼女の事を知っているのはジュードだけでは無い。彼女がジュードの仲間である以上俺も彼女の事を知っている。
「いやー!!まさかこんな所で仲間に会えると思わなかったよー!まさかあんたもこっちに来てたなんてね!」
ルイーザは感極まったような表情でジュードとの再会を喜んでいる。
「僕もだ。正直この世界に飛ばされたのは僕だけだと思っていたよ。他の皆はどうしている?」
ジュードの問いに対して急激にテンションを落としたルイーザは、落胆したような声でその質問に答えた。
「それはこっちが聞きたいねぇ〜。気がついたら周りの景色が一瞬で変わってて、あたし一人になってたんだ。ほんとに瞬きする間だったよ。あんたもそうなんだろ?」
「あぁ。」と答えるジュードにルイーザは言葉を続ける。
「あたしが皆とはぐれてから五ヶ月くらいか。今あたしが居る騎士団にも手伝ってもらってみんなの捜索をしてるけど、手がかりすら掴めない。あいつらならどっかで何かしら大事に巻き込まれてそうなもんなのにねぇ。もはやあたしとあんただけがこっちの世界に飛ばされたみたいな感じだよ。」
ルイーザの言葉に俺達も落胆していると、その場の空気を持ち直すように彼女が明るい表情を作り直した。
「まぁ!とにかくだ!こんな辛気臭いところもう出よう!あんたらがどうやってここに入ったか知らないけど、後のことはあたしに任せな!」
ケイトは感激したようにルイーザに感謝している。
「あぁ〜っ!良かったぁ〜!!私達また来た道を戻るつもりだったから…ちゃんとした出口があるのね!」
「もちろん!今あたしが世話になってるラクサの町ってのがその先にあるから、そこまで連れてくよ!積もる話はそこでしよう!」
その言葉に真っ先に反応したのはケイトだ。
「ラクサの町か!次の記憶の結晶があるクジャ遺跡と同じ方角よ!ツイてるわ私ら!」
それから俺達三人はルイーザの案内でこの洞窟を出る事になった。
─2─
湿気が放つにおいと空気の中をルイーザが先行し、俺達は彼女の後ろをついて行く。
俺達は改めて互いの自己紹介を終え、それからルイーザは道中でこの世界に来てからの話をしてくれた。たった一人で知らない場所に放り出され、しばらくは手持ちの装備や貴重品を売り払って旅の資金を捻出していたのだが、それもすぐに底をついてしまい、飢えと疲れで今にも倒れそうになっていた所を今所属している騎士団に拾われたらしい。
実はジュードも同じように持ち物を売って資金を作り出していたそうなのだが、ルイーザと比べて彼の生活資金にかなりの余裕があったのは、『元の財力の違い』だそうだ。そういえば彼の家柄は相当太いのだった。
彼女の話の後、ジュードは自分達のこれまでの旅について、それからどうやってこの空間に入ったのかも合わせて説明した。
この世界が俺、ショウマの精神世界だと聞いた時は最初耳を疑っていて今一ピンと来ていなかったようだが…。
「そういえば、お前は何故ここへ?用がなければわざわざ来るような場所でもないだろう。」
ジュードはルイーザがここにいた理由を尋ねる。
「あぁ、あたしはあの神殿に用があったのさ。あの神殿って比較的最近見つかったらしくてね。なんだか歴史的に価値のある遺跡の可能性があるから、専門の調査団があれを調べ終わるまでの間は国が直々にあたしらの騎士団に指示を出して立ち入り禁止区域にしてるんだよ。」
それを聞いたケイトは顔が青ざめている。
「ちょっと待って……た、立ち入り禁止区域って…国が直々に…?私らそこに勝手に入っちゃったってこと…?」
確かにそうだ。知らなかったとはいえ国単位で立ち入りを禁止している場所に無断で入ってしまったのは結構マズイのではないだろうか。
「あぁ、それなら大丈夫だよ。あたしがうまく説明するから!あたしら騎士団も中までは進入しちゃダメなんだけどね。うまーく当番の部下にお願いして入ってんだ…。」
「でも、あの神殿が発見されたのが五ヶ月前、あたしらがこの世界に来た時期と大体一致する。元の世界に帰るのに今はどんな些細な手がかりでも欲しいから、非番の日にこうして調べに来てるのさ。」
「ルイーザのおかげで何とかなりそうだが、お前…職権乱用じゃないか…。」
「細かい事は気にすんなってジュードぉ〜!」とルイーザは彼の肩を叩きながら笑う。叩かれているジュードが少し迷惑そうにしているのを見ると、改めてこのルイーザという女性の型破りで大胆な性格が見て取れる。
「あ、ほら!そんな話をしてるうちに出口が見えてきたよ!お天道様が気持ち良いねぇ〜!」
俺達はとうとう出口付近まで到着したようだ。
輝晶灯を片付けながら、ケイトは先程から全く喋らない俺の様子を伺ってきた。
「あんた…もしかして…緊張してる…?」
図星をつかれた俺は小声で彼女の言葉を返す。
「う、うるせぇ…。」
─3─
目の前で輝く白い円が俺達を包み込み、少しずつ景色が明らかになっていく。
一体どれくらいの時間あの暗闇の中にいたのだろうか。ジメジメとして真っ暗な、居るだけで気分が落ち込み続けていくような洞窟から抜け───
───そして、陽の光の照射と共に騎士団に捕まった。
「止まりなさい!その場を動かないで!」
四人は言われた通りその場で静止し、手を上げる。
「どういう事だ…話が違うんじゃないか…」
ジュードの問いにルイーザは苦笑いで返した。
「あ、あはは…おっかしいなぁ…アレックス…?これってどういう…」
「アレックスはァ!!悪くなァい!!!」
ルイーザの声をかき消すようにして、2m近い巨体を持つ男が彼女を怒鳴りつけた。逆立つ髪型と、同じように逆立てている髭。人間一人分位の長さはありそうな巨大な両手剣を背中に背負ったその男は、名乗らずともこの騎士達の長であるとわかる風格をしている。
「オーレン支部長…。」
ルイーザは完全にやらかしたと思った。寄りにもよってこの男にバレるとは。
「ルイーザァ…最近お前が非番になると毎回街の外に出かけていくもんだから、なァァァんかおかしいなァと思ってな?」
「それも!!!立ち入り禁止の!!洞窟の方角にィ!!!」
急に出される大声に、俺達は思わず耳を塞ぎたくなる。
「もしやと思って昨日のうちに書類を全て片付けておいて後を付けてみたら……案の定だァァァ!!!」
「大変だったんだぞォ!!最近魔物の出現報告が多いから常に俺の部屋は書類の山だァ!!!」
「あぁ…そっちっすか…。」
「うるさァい!!お前達は!!!連!行!だァァァ!!!!」
こうして俺達四人は、非常に不本意な形でラクサの町へと案内される事になる。
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