終礼
俺が突き刺した両手の剣は、リュウゲンの背中から地面までを貫通した。
俺の…勝ちだ。
─1─
終わった、そう確信した時に、体から一気に力が抜けていき、同時に両手に握られていた二本の剣も限界を迎えてバラバラと崩れていった。
リュウゲンは体を回し、仰向けの体勢になってから虫の鳴くような声を発した。
「私は…負けたのですね…」
リュウゲンは最期に確認したい事をショウマに告げた。
「将真君。あなたは、もし友人が虐められていたら、どう思いますか。」
その言葉に、俺は心臓が跳ね上がる感じがした。心当たりがあったからだ。
「虐めてる奴は…ホントクソだと思うよ。でも、俺はいじめられるような弱い奴には絶対なりたくねぇなって、前はそう思ってた。」
リュウゲンは一瞬心に憎しみが渦巻く感覚を覚えた。しかし───
「でもさ、俺同じ立場になっちゃったっぽいんだよ。幼馴染も、仲間だと思ってた奴らも、むしろ全然関わったことのねぇ奴にも俺は攻撃されてんだなって思ったら、俺は誰を信じていいかわかんなくなった。この世界に来てからなんて、俺はなんにも出来ねぇし、ずっと守られてばっかだったし…あぁ、やっぱ俺が弱いから…態度だけデカくて弱いから、皆ムカついて攻撃してくんのかもなぁなんて、本気で思ったこともある。」
それは、半ばやけくそになっていた俺の本音だった。
俺は刻々と弱っていくリュウゲンを見て、焦りながら話を続けた。俺は自分の思いを誰かに聞いて欲しかったから。
「でも、最近思うんだ、弱いから虐められる訳じゃないんじゃないかって。答えは今は分かんねぇよ、でも俺はその答えを出しに行く。その為に旅を続けるんだ。」
リュウゲンは思った。この子の目は、ウソをついていない。この子は、ウソをつかないんだ。ならば…
俺は最後に、リュウゲンに対して決意表明をした。俺はもうこんな思いをしたくない、こんな思いをする人は、もう居なくていい。
「俺はもう、自分も周りもいじめさせねぇ。」
リュウゲンはその言葉をしっかりと聞き、そして徐々に意識が遠くなっていく。リュウゲンはスーツの内ポケットから小さなノートを取り出し、それを俺に手渡してきた。
「私がこの世界に来てからの記録です……ここに………記憶の結晶の所在も…書いてあります……。」
彼の目にはもう、何も映っていなかった。
何も映さなくなったその視界で、ぼんやりと何かが映り始める。
(父さん…?)
父の姿が、見えた気がした。
(流元…流元…!!ごめんな…ごめんなぁ…!父さん、お前に余計な事言っちまった…!苦しかったな…辛かったよな…)
(いや、違うよ父さん…)
(僕は父さんに感謝してるんだ。父さんのお陰で、初めて自分にやりたい事が出来たんだ…。初めて自分に信念が出来たんだよ…。)
実際教師になろうと努力していた時期は、思い返せば楽しかったように思う。目標があって、それに向かう毎日は生きた心地がした。
(それに…まだ終わりじゃないよ…父さん。)
(父さんが僕に伝えてくれた事は…しっかりあの子に伝えるから…。)
(あの子が…きっと…受け継いでくれるから…。)
「将真くん…忘れないでくれ…あなたの痛みは…だれかの…鎮痛剤に…なるんだ……。」
リュウゲンは伝えるべき事を全て伝えると、最期の瞬間に一つの希望が湧いていた。
「あぁ…ぼくは……君のせんせいに……なりたかったなぁ……。」
なりたかったんじゃない、あんたは…
「先生は今大事な事を教えてくれたじゃん。だから、ありがとうな…先生…。」
そう俺が伝えると、リュウゲンはゆっくりと、幸せそうな笑顔を見せて、粒子のようにバラバラと上空へと散っていった。
そして、彼を見送った後───
張り詰めた心の緊張が一気に緩み、虚勢で保っていた意識が解けていく。
それと同時に、俺の全身がバラバラに千切れるような激痛が走る。
「ッッッあッ………がッ……あぁッ……!!?」
「ぁぁぁぁああああッッッ!!!!」
痛すぎる。体の震えが止まらない。歯を食いばったまま顔の強ばりが解けない。あまりの苦しみに俺は、ついに意識を失った。
─────第二章 レーベ強襲編─────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます