決着

拳と剣

 ─1─


 ジュードの放った黒槍が、猛スピードでリュウゲンの元へと直撃する。


 その直前、避けられないと踏んだリュウゲンは周囲に風の結界を発生させていた。



 とてつもない爆風が周囲を襲う。その威力は岩の巨人の時の比では無かった。俺とケイトは思わず吹き飛ばされそうになるのを必死で堪える。


「う……おおおおおッ……!」


「何……これぇぇ………ッ!」


 草木もまた、折れそうになるのを必死で堪えている。


 魔法の発動が終わると同時にジュードは着地し、冷静に対象へ目を向けている。


 土煙がはけ、徐々に事の顛末が明らかになっていった。


 そして───



 ジュードは目を見開いた。まさかそんな筈はないと。


「そ、そんな……バカな……。」


 リュウゲンは立っていた。ボロボロになりながらも膝をつくことなく、その場で意識を保っている。


 ショウマの戦闘中、気づかれないように詠唱までして放った、紛れもなく自身の最大火力で放った黒槍のはずだった。それを彼は耐えている。


 彼らが驚きを隠せない中、リュウゲンはついに本気を見せた。


「術式…解錠…」


 リュウゲンがそう唱えると、周囲の結界が発光し、一回り巨大化する。


 リュウゲンは、自身の最大の魔法を放った。


「螺旋衝!!!」


 リュウゲンが両手を左右に伸ばす。結界が無数の風の刃を纏い、一気に放出される。


 強烈な斬撃音と共に最初にその餌食となったのはジュードだった。


「まだ…こんな力を残していたとは……!」


 ジュードは風の刃に切り刻まれながら宿屋の方へと吹き飛ばされた。


 次の餌食は…俺だった。


 二つの剣で防御姿勢を作る。こんなもので防ぎ切れるわけが無い。それでも俺は必死で身を守った。


「ッ…!!」


 ケイトは何とか魔法のバリアを作り出した。ショウマに対してだ。


 風の刃が俺ではなく水のバリアを切り刻んでいく。


 魔力を使い果たし、無防備となったケイトの方へ風の刃と衝撃波が襲う。


「悔しいけど…あなたが一番勝ち目がありそうなのよ…だから、頼んだわよ…ショウマ…」


 同じように、ケイトは無数の風の刃と衝撃波によって吹き飛ばされていった。




 リュウゲン最大の攻撃が終了する。


 辺りの草木は完全になぎ倒され、宿屋の北側は半壊していた。周囲はもう更地のような状態になっている。


 立っているのは、俺とリュウゲンの二人だけになった。


(やるしかない…。)


 俺は覚悟を決めてリュウゲンと対峙する。




 ─2─


「君も…なかなかしぶといですね…。」


 連戦の末ジュードの黒槍を受け、自身の最大魔法を使ったリュウゲンは既に魔力も底をつきかけている。もう立っているだけでもやっとの状態だった。


「あんたもな…バケモンかよ…。」


 はじめて発現した能力を使い、慣れない戦闘に身を投じていたショウマもまた、体が限界を迎えていた。力のせいなのか先程から全身が強く発熱しており、体が発火しそうな気さえしていた。



 リュウゲンは一向に倒れる気配の無いショウマを見て思わず感情が滲み出る。


「何故です…何故、君はそんなに立っていられるのですか…。」


 リュウゲンはもうショウマの事が分からなくなってきていた。見るからにボロボロで、今にも泣きそうな顔をしている。なのに、彼をそこまで突き動かす原動力は何なのか。どうして逃げてこの世界で生きようとしないのか。地獄のような現実に帰るよりここにいた方がずっと楽じゃないか。


「あんたさ、言ったよな…被害者面して、自分が悲劇の中心みたいな振る舞いをするヤツが嫌いだって…。」


 倒れないように、必死で体を強ばらせながら、ショウマは内側から大きな声を吐き出した。


「ああそうだよ、思ってるよ!!急に周りから目の敵にされて、誰も信用できなくなって、自分だけが人間不信になってまともに会話も出来なくなって。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。理由も分からないまま、誰も教えてくれないままなんでこんな目に遭わなきゃいけないんだって。」


「でも人が信用出来なくなって、周りの目が怖くなってから初めて一つ気づいたんだよ、今まで自分がしてきたことが本当に正しかったのか、自分の今までの人との接し方は本当に正しかったのかって。だからそれを!!確かめてェんだよ!!!」


 必死で、ショウマは自分の感情を吐き出した。本当はずっと誰かに聞いて欲しかったのだ。


「この子は…」



 リュウゲンは一瞬覚えた安心を殺し、ショウマへと突撃する。


「勝手な事を…君は…同罪なんですよ…!」


 足の筋肉が断裂しそうな激痛が走る。


 向かって来るリュウゲンへ、ショウマも同じように突進した。


「勝手なのはてめぇだろうが!!」


 拳と剣が、再び激突する。


 リュウゲンが放つ拳に、俺は思い切り左手の長剣を振り下ろした。先程とは違い、もうそこに鉄のような感触は無い。


「はぁぁぁッ!!」


 体勢を崩したリュウゲンへ、今度は右手に握った短剣を殴るように突き出した。


 リュウゲンはそれを直前で掴み、攻撃を防御する。


「いつだって攻撃されるのは、何をしても反応しない、何も出来ない!そういう弱い者だ、君もそう思っているのでしょう!!!」


 リュウゲンは握ったショウマの右腕を強く締め、力の限り後方へ投げ飛ばすと、空中で無防備になっているショウマに向かって再び突撃した。


「おぉぉぉぉぉ!!!」


 リュウゲンの拳が、抉るようにショウマの腹部へ命中する。


「おぇッ…。」


 殴ったその拳で、そのままショウマを地面に突き落とし、再び拳を構え──────


「沈めェ!!」


 そして、迫る拳に対しショウマは背面跳びのようにして宙を舞い、それ回避した。


 ジュードがいつもやっていた、舞を踊るように戦う、その姿のように。



 上下の位置関係が逆転する。


 ショウマは左手の長剣を逆手に持ち、右手で同じように持つ短剣と合わせて地上のリュウゲンの背中へ思い切り振りかざす。


「終わりだァァァァ!!!!」


 ドスッ。という鈍い感覚と、骨と肉が断裂するような不快な感覚が腕を伝う。


 ショウマの剣は、リュウゲンの背面から地面までを貫通していた。



 戦いは、ショウマの勝利で幕を閉じた。

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