タワラオの池
「明日さ、特訓に付き合って欲しいんだ。」
「力のコントロールか、いいだろう。ただ僕の訓練はそれなりにキツいぞ。覚悟しておけ。」
「もちろん、頼むわ!」
─1─
翌朝、俺達の地獄の特訓が始まった。
最初はウォーミングアップと称したジュードとの剣の稽古だ。俺は何とか自分のイメージから剣を作ろうとしたがどうしても上手くいかず、仕方が無いのでジュードの左手に握られている長剣を借りた。ジュードは普段長剣を攻撃用に、防御用に短剣を使っているのだが、その攻撃用の長剣を俺に渡したにも関わらず、ジュードは短剣一本で俺を圧倒していた。
(ジュードには程遠いな……ホントに…)
準備運動を終えた俺は、続けて力のコントロールの訓練を始める。
以前試した事に加え、今回は敢えて弱いジュードをイメージしてみたり、いつもは感情を一気に放出するようにして創造物を具現化しているので、気持ちの昂りを抑えながら力を発動させてみたり、色々試していく。
その度に、俺の両手でバチバチと光が音を立てて発光する。やがて光は弱くなっていき───
そして、光は何も創り出すこと無く消えていく。ずっとこの繰り返しだ。
「あぁー…ダメだ…。」
力のコントロールは一向に上手くいく気配がなかった。感情を抑えて力を発現するやり方は何となくしっくり来たので、もしかしたらこの方向性が正しいのかもしれないと考えていたところ、それを遮るようにジュードが話しかけてきた事で、その思考は中断させられる。
「そういえば、お前はいつも僕の持っている剣をイメージして作り上げているのか?」
その言葉のニュアンスの違いを指摘した事が、まさか現状の打開策になるとは思わなかった。
「いや、剣だけじゃなくて正確にはジュードの戦い方そのものをイメージしてる感じかな。そうすると体がジュードの動きまで再現してくれんのよ。」
(なるほど…だから基礎もなっていない割に戦い方が僕に似ているのか…。)
「例えばだが…戦い方ではなく剣だけをイメージして創り出すことは出来ないのか。」
(………あ。)
───それだ。
「それだ!なんでこんなシンプルな事に気が付かなかったんだろ…ジュード全体よりも剣だけイメージする方が絶対簡単じゃんな…。」
「その方針で一度やってみよう。それと、剣だけをイメージしていくとなると戦い方は一から鍛える必要があるから、明日からは剣の稽古の方も本格的にやるぞ。」
方針を決めた俺は、再現物を『ジュード』では無く、『ジュードの剣』に変更して訓練を続けた。
(剣の稽古…あのキツさで本格的なヤツじゃなかったのかよ…。)
─2─
───翌朝。
ジュードの剣をイメージして作り出すことは予想通りさほど難しくなかった。難しくは無かったのだが、今度は別の問題が発生した。
簡単に折れてしまうのだ、ジュードの剣が。
対象を剣単体に絞った事で、今まで以上に生成物に対するイメージの具体化が必要なのかもしれない。こればかりは反復練習しか無いが、幸い体に強いフィードバックは来ていない。これなら何度も練習できる。
────────────────────
ジュードの厳しい剣の稽古と、力のコントロール訓練を始めて数日が経過した。
俺は少しずつ剣技が上達しており、能力の方も少しずつしっかりとした剣が作り出せるようになっている。まだ実戦レベルのものでは無いが…。
途中から訓練にはケイトも参加するようになっていて、彼女は別でジュードに魔法の指南を受けていた。ケイトは飲み込みがかなり早いようで、俺とは対照的にみるみるうちに力をつけていった。
訓練はしんどかったのだが、決して辛い事ばかりではなく、合間に宿屋の女将さんが差し入れを持ってきてくれたり、夜には三人で村の中を散策してみたり…そういう日々が、まるで部活のようで楽しかった。
────────────────────
キサノ村での日々を過ごしていると時間はあっという間に流れていき、訓練が始まって約三ヶ月が経過した頃───
俺はイメージした、今までずっと頭の中で反復してきたジュードの剣を。
バチバチと音を立てて光が掌から発光し、左手にイメージ通りの剣が再現される。
手に持った感触は明らかに初期の頃と違う、しっかりとした重さと硬さがある。
これまでずっとジュードの長剣で訓練してきたお陰か、対象物に対する理解が深まった結果かもしれない。
俺はジュードの方を向き、力強く構える。
「ジュード…頼む。」
ジュードが鞘から俺と同じ剣を抜き、俺の方に体を向けると、そのまま俺達は互いの元へと突進した。
「はぁぁぁッ!!」
「ふんッ!」
俺達の剣が、音を響かせてぶつかり合う。創り出した剣が一度目の衝撃に耐えた事を確認し合い、そのまま何度も剣を交わす。
金属同士が鋭い音を響かせ合う。剣技の方も随分上達した。ちゃんとジュードに自分の攻撃を届ける事が出来ている。
しばらく模擬試合が続いたが、ようやくジュードが検証するには十分と踏んで「そこまで!」と合図した事で、俺は剣を引いてそれを確認した。
「よし……折れてない……!」
俺はついに力のコントロールを成功させた。
「やった…やったぁ!!!!!」
俺は飛び跳ねながら喜んだ。それを見届けたケイトも俺と一緒になって飛び跳ねながら喜んでくれた。
歓喜する俺達の様子を見て、ジュードは少しだけ微笑みながら喜んでくれた。
─3─
「この村ともお別れか…。」
滞在期間が最も長かっただけに、俺はこの村に愛着が湧いていた。もしこの世界でずっと生きていかなくてはならなくなっても、ここでの生活は悪くないかもなぁとすら思った。
「女将さん、色々ありがとうね!絶対また来るから!」
ケイトは少し涙目になりながら女将さんにお礼を言っている。
「ケイトちゃんも元気でね!あんたら二人も!ちゃーんとケイトちゃんの事守るんだよ!」
この村で一番お世話になったのは間違いなくこの女将さんだ。歳は聞いていないけれどうちの母親と同じくらいな気がするので四十代半ば位だろうか。俺達のことを自分の子供のように可愛がってくれて、夜な夜な自主練をしていた時も夜食を作って待ってくれていたり、俺がうっかり寝坊しそうになった時はこっそり起こしに来てくれた。ホントに優しい母ちゃんみたいな人だった。
「あ、タワラオの池に行くんなら、村を出て街道をずーっと歩いていってね。最初の分岐を左に行けばすぐ林に当たるから。そこが目的地さ。そんなに遠くないからすぐ着くと思うよ。」
「ほんと、色々ありがとう!おばちゃん!」
俺は母を安心させるように元気よくお礼を言ってから、目的地であるタワラオの池へと向かった。
────────────────────
女将さんが教えてくれた通り、目的地のタワラオの池の所在はすぐに分かった。俺達は言われた通り分岐を左に進み、目の前に現れた林の中に入っていく。
「ついたな、目的地に。」
ジュードの声を合図にするように、俺達はその場で足を止める。
「さぁ、肝心の記憶の結晶は…。」
俺は辺りをきょろきょろと見渡しながら目的物を探す。
(記憶の結晶は…)
「記憶の…結晶〜…。」
ケイトも同じように辺りを見渡しているが、しかし…。
───無い。
それから俺達はしばらくの間辺りを探し回ったが、緑色に発光するそれの気配すら感じない。
明らかにどこにも無いのである。
「無い…記憶の結晶が……どこにも無い……。」
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