五つ目の痕跡に向けて
─1─
「都田は…乗っ取られてるかもしれねぇ…。」
そう考えれば考えるほど、彼の人格の変わりように説明がついてしまう。
「リュウゲンと同じように夢喰いとなった人間に乗っ取られたというのか…。だとしたら彼も精神世界を持つ人間という事になるが、同じような世界を持っている人間がそこら中にいるとは僕は思えないな。何よりも…」
───都田の精神は、もう死んでいる事になる。
俺は一瞬とてつもない憎悪に襲われた。だがダメだ。ここでそれを決めつけてしまうのは…。
「いや、確信は持てないけど可能性はあるって話だ…真実は直接確かめるしかねぇ…。」
「そうね、記憶の結晶を巡っていけば、彼がいつから変わってしまったのか、なぜ変わってしまったのか…そういう事も分かるかもしれないわ。」
ケイトの言う通りだ。俺はここで結論を出すつもりは無い。真実は直接確かめる。そう決めたのだ。
「あぁ、そんじゃ行こうか。次の結晶の場所へ。」
─2─
【葛藤の記憶】、それはキサノ村という村の近くにある、タワラオの池にあるとノートには書いてあった。
俺達は現在地から最も近いと思われるその記憶の結晶を求めて旅を続けている。
道中何度か魔物に遭遇したが、それらはジュードとケイトが片付けてくれた。俺は戦闘禁止令が出ているので見ている事しか出来なかったが、二人が戦っている中で何も出来ない事がもどかしく、出来るだけ抽象的なイメージで力を使ってみたり、光が発生する際に力を抑え込んで体への負担を減らそうとしたがどれも上手くいかなかった。
───道中休憩や野営を挟みつつ、歩き始めておよそ三日───
「あ、あそこ!村っぽいの見えるぜ!」
日が沈み、辺りが完全に暗くなってきた頃。俺達は人の営みが作り出す光を発見した。
こうして俺達はキサノ村に到着したのだった。
────────────────────
村に到着してすぐに宿へのチェックインを済ませた俺達は、ほとんど一日中歩きっぱなしで使い果たしたエネルギーを補給するため、その日の夕食を探す事にした。
俺達は適当に歩いて気になる店を探すつもりだったのだが、ケイトが「この村の名物は村の人に聞きましょうよ。」と言って宿屋の女将さんにオススメを聞いてくれたので、女将さんイチオシの洋食屋に足を運ぶ事にした。
彼女のコミュニケーション能力には今後も助けられそうだ。
洋食屋で注文をしてから十数分、それぞれが注文した料理が運ばれ、俺がそれに手をつけようとしたところでケイトが口を開いた。
「このお店はイタリアンが有名みたいね。女将さん私と趣味合いそう!」
俺はケイトのその言葉が妙に引っかかったので、彼女にある事を質問する。
「なぁケイト。この世界でもこういう料理の事はイタリアンって言うの?」
「えぇ、そうよ。これはイタリアンね。」
俺は続けて質問する。
「じゃあさ、イタリアンってなんでイタリアンって言うかは知ってる?」
俺がそう言うと、ケイトは首を傾げて一体何を言っているのかわからないという風な顔をして答えた。
「言われてみれば…知らないかも…。イタリアンはイタリアン…だし…。」
(なるほどなぁ、この世界の知識って俺の記憶とかが元になってんだ…。)
だからここにはイタリアが存在しないのにも関わらず、ケイトは目の前のボロネーゼを見てイタリアンと呼んだのだろう。
俺はなるほどなぁ…という顔をして目の前にあるパスタに手をつけた。
「え…それでイタリアンの語源ってなんなのよ…?」
─3─
食事を終えて宿へ戻ってきた俺達は明日に備えて解散し、それぞれの自室へと向かう。
部屋の前まで来た所で、俺は思い立って来た道を引き返すとジュードの部屋の方へ向かい、彼の部屋のドアを叩いた。
「ジュード、ちょっといい?」
部屋の中で人の足音が聞こえ、すぐにジュードが顔を出す。
「どうした、眠れないのか。暇潰しには付き合わんぞ。」
「違うよー。俺だって眠いし。あの…お願いがあって。」
「なんだ?」と言うジュードは恐らく分かっているのだろう、俺が言いたい事は。
「明日さ、特訓に付き合って欲しいんだ。」
ジュードは嬉しそうに少し微笑むと、その笑顔のまま俺に告げる。
「力のコントロールか、いいだろう。ただ僕の訓練はそれなりにキツいぞ。覚悟しておけ。」
俺は表情にやる気を滲ませて答える。
「もちろん、頼むわ!」
こうして、俺とジュードの地獄の特訓が幕を開ける事となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます