心の中に潜む真実
─1─
三つ目の結晶を見つけた時は、正直死を覚悟した。
魔物が多すぎる。ざっと見ただけでも十体近くはいたはずだ。それに魔物の強さもこれまでの比では無いくらい強かった。
ジュードが戦う姿を見ているだけで、俺は何も出来ずに足を震わせている事しか出来ない。生きるためには多少なりとも武力が必要と思われるこの世界では、あまりに無力な自分がたまらなく惨めに思えた。
結果はジュードの辛勝。なんとか勝利した俺達は、最後の結晶の記憶を確認する。
────────────────────
(これは…!?)
間違いない。
2010年12月20日。俺がテニスコートで都田達の話を聞いた後の出来事だ。
思考をやめ、フラフラと帰宅する俺。
自宅に着くと、俺の姿に異変を感じた母が声を掛けてきている。
「おかえり…。どうしたの?将真?何かあったの?」
あの時は放心状態になっていて全く聞こえていなかった、母の言葉だ。
(そうか…この記憶には…!)
俺はこの時、一つの確かな手がかりを掴んだ。
べッドに倒れ込み、その反動で枕横のゲーム機が床に落ちる。
追い詰められて、逃げるようにして眠る俺───
そうだ、やっぱりそうだ。間違いなく俺は眠っている。
眠りに落ちた後、俺は神秘的な出来事を目の当たりにした。
───この世界は、確かに俺が眠りに落ちるのとほぼ同時に形作られている。
世界の誕生を目の当たりにし、大方の状況を理解した。だが記憶の再生はそこでは止まらない。
その直後、俺には身に覚えのない記憶が再生され始めた。
将真、探すん──記──結晶を。
(誰だ…?)
着物を着ているような、長い黒髪の女性…だろうか…。確かに俺に話しかけてきている。
───と、シャドウが───迫って───
この世界は、この力──
君の世界を、変──れ──
なんだかノイズが入ってきていてよく聞こえない。なんとか聞き取ろうとしたが、記憶の再生はそこでストップし、俺達の意識は元の場所へ戻っていった。
─2─
パチパチと焚き火の燃える音が心地良い。
夜風が火照った俺たちの体を優しく冷ましていく───
ジュードの案内で俺の記憶が刻まれているという結晶体を巡り始めてから約一週間が経過していた。
決定的な手掛かりは未だ掴めていないが、いくつか分かった事がある。
「実際に記憶の結晶を巡ってみてどうだ、なにか手がかりは掴めそうか。」
俺に話しかけるジュードの声が、心做しか少し柔らかくなった気がする。
「うん。まだかなり漠然としてるけど、いくつかわかった事がある。」
俺は自分なりに考えた仮説をいくつかジュードに説明した。
「まず、ここは俺の見ている夢の世界って事で間違いないと思う。あまりにも感覚がリアルすぎたり、意識がはっきりしてるのはまだ説明つかないけど…。俺は眠った事で、自分の意識の中に落ちていくような感じだった。」
「それから二つ目、あの記憶には俺が聞きそびれたり、当時は気づいていなかったような事まで詳細に再現されてる。耳とか目には入ってたけど、当時は意識してなかった事とかかな。」
二つ目の仮説はほぼ間違いない。だとすればこの状況は逆にチャンスかもしれない。
「記憶を巡れば、俺は自分がいじめのターゲットになっちまった原因もある程度突き止められるかもしれない…。」
ジュードは焚き火の揺れを眺めながら俺の仮説を自分の中で十分に咀嚼してから言葉を返す。
「なるほど。となると、僕達が帰る方法は未だ分からずという感じか。現状出来ることはやはりこの記憶の結晶を巡ってこの世界の秘密に迫る他に無さそうだな。大元であるお前がこの世界から無事帰還出来れば、僕も元の世界に戻される。なんて事もあるかもしれん。」
決定的な手掛かりは掴む事が出来なかったが、ひとまず旅の方針は決まった。全部でいくつあるかは分からないが、納得がいくまで自分の記憶を振り返っていくしかない。
目的を定めたショウマの、真っ直ぐと前を見据えるような眼差しを見て、ジュードは少しだけ彼への評価を改めた。
(この少年は、存外信用しても良いのかもしれないな…。)
彼は少なくとも、悪意を持って自分をこの場に召喚した訳では無い。ジュードは彼の姿を見てそれだけを確信した。
少なくとも今の時点では、それが分かったことだけでもこの二人にとっては十分だったのだろう。
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