第二章 レーベ強襲編
ショウマとジュード
夢想する世界
自分の見た夢が鮮烈に記憶に残る事がある。
あなたはどうだろう。起きた時に自分が直前まで見ていた夢が強烈に心に残っていて、しばらくその余韻に浸ってしまうような事はあるだろうか。
例えば、夢の中で今までは特になんとも思っていなかった芸能人に出会って、行動を共にする。その夢がとても鮮明に心に刻まれた事で、その人と一緒にいた時間が何だかとても愛おしく思えてしまうような。今までとは違って、その人の事が何故かとても大切な人に思えてしまうような───
────────第二章─────────
「ここは…どこだ…。」
俺は先程までいた自室から突如として様相を変えた世界に動揺が隠せなかった。俺はさっき、確かに自室のベッドで眠ったはずだ。だとすればここは夢の中なのだろうか。
俺はこのままじっとしていても仕方が無いと思ったのか、無意識のうちに体を起こして草原の上に立っていた。
風が気持ち良い。確かに存在を感じつつ、それでいて不快感のない強さで吹いている風が、肌に心地よかった。それが最初に抱いた感想だった。
次に抱いた感想、それは───
(どこがで見た事がある。)
この風景には見覚えがある。だがこの場所に来た事は一度たりともなかったはずだ。
俺はこの場所を何とか特定しようとして自分の記憶の中から似たような風景の写真を何枚か探ってみるが、見当たらない。
しばらく考えてから、まさかと思い最近プレイしたゲームの記憶を手繰ってみたところ、案の定該当する場所が一件だけ見つかった。
「間違いない…俺はこの世界をプレイした事がある…。」
俺が毎日寝落ちするまでベッドの上で遊んでいたゲーム、その世界にこの風景が存在したはずだ、間違いない。あのシリーズは小学生の頃から思い入れがあってずっと遊び続けているからわかる。
俺はそこまで思考が整理された事でこの状況にひとつの答えを出した。
「やっぱ、ここは夢の中なのかもな。」
自室のベッドで眠ったのは間違いない、感覚として覚えている。だとすると『とてつもなくリアルな夢』を見ていると考えるのが一番自然ではないだろうか。触覚や嗅覚、聴覚などが驚く程しっかり機能しているので、とても夢の中とは思えないが…。
「夢なら覚めるまで待つしかないか。」
置かれている状況に理解が及ばないせいか、俺はこの状況にさほど不安を感じなかったが、その一方でこうも思った。
「起きても来るのは地獄の明日か…。」
俺の現実の生活には、もう希望は無いと思った。
幼馴染が俺を嵌め、部内では恐らく孤立。親友も一枚噛んでいる可能性が高い。恐らく不可抗力だとは思うが、それでも彼には強い言葉を当てて突き放してしまった。
この問題の厄介なところは、部内を中心に起こっているものの校内で頻発しているいじめの主犯格、柔道部の土屋が絡んでいる可能性がある事だ。
俺が副部長になれたのは都田が推薦したからだった。やる気のないあの部で、役職を付けて張り切らせ、周りに発破をかけさせてヘイトを集めるため。
これは部内で完結している話だ。だが───
佐藤が俺と付き合ってから別れるまでの一連の流れには、土屋が絡んでいる可能性が高い。
佐藤が告白してきた日、その事を予め俺に伝えてきたのは落合だった。だが彼の情報源は齋藤と土屋である。落合は彼らのいじめの対象になっているので、何かしら悪事を働く際の捨て駒として落合は良く使われていた。
そして、一ヶ月後に俺たちが別れる理由となったのは齋藤の密告だった。
───おかしい、あまりにも話が出来すぎていないだろうか───
(俺はどっちを信じればいいんだ。佐藤の笑顔、不自然な出来事…。)
今考えれば、少なくとも付き合っていた間、佐藤が見せてくれた笑顔や振る舞いには嘘を感じられなかった。それでも付き合ってから別れるまでの一連の流れには何かの力が働いている気がしてならないし、俺はもうどっちを信じていいのか分からなくなっていた。
まぁ、先月一方的に振ってしまった以上、考えたところでもう取り返しがつかないのだが。
そうなってくると俺に手を差し伸べてくれる人はもう学校内にはほとんど居ないかもしれない。味方がいるかもわからない、怖い。
誰かにいつも通り話しかけるのが怖い、悪い予想が当たってしまいそうな事がとても恐ろしい。
悪い予想が外れたとして、内心はどう思っているのか分からないことが怖い。
信用できる範囲が全く分からない、その漠然とした不安が俺を襲った。
俺の頭の中が恐怖でいっぱいになる。帰りたくない。このままここにいたい。
頭を抱えた俺は逃げるようにして再び広大な風景に意識を向ける。
(あぁ…やっぱ綺麗な世界だな…。)
その瞬間ふと湧いて出たように思ったのだ。
(旅、してみたいな…。)
ずっと憧れだった。剣と魔法と、不思議な出来事が沢山起こる世界で旅をする事が。
もちろんそんな虚構が実現する訳もないとは思っていたが、今俺の目の前にあるのは紛れもなくその虚構の世界だろう。だから───
「少し…歩いてみようかな…。」
好奇心の赴くままに、俺は画面越しに憧れたこの世界を少し歩いてみる事にした。
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