2010年10月10日
何があった、いつからだ。いつからこうなった。
菅生将真は必死に頭を高速回転させて、ここ最近で起こった出来事を振り返った。
─1─
2010年10月10日(約2ヵ月前)
「おい!!菅生!!お前やばいぞ!!!」
朝練を終え、だるそうに窓際の最後列にある教室の自席に腰を下ろそうとした直後だった。
大きな声で他教室であるここへ飛び込んできたのは落合という俺の親友だ。
お前やばいぞ、という言葉の響きから俺の顔はじわじわと青ざめていく。心当たりは無いが、何かやらかしたかもしれない。
「す、菅生…三組の佐藤、お前のこと好きだって!!!」
落合は天然パーマの髪をさらにクシャクシャにするように頭を掻きながらそう言った。
予想外の言葉に放心状態になった俺は、考えるより先に言葉が口先を飛び出していた。
「え、は…?」
「マジで…?」
「え!!?いやマジでェ!!?」
佐藤というのは佐藤絵奈の事だろうか。ずっとクラスが違うのであまり面識は無いが、彼女と言えば昔子役として芸能活動をしていた事もある学校一の美人として有名だ。代表作などは特段聞いた事は無いが、当時放送していた昼の帯番組に出演した事があるという。
俺が彼女の事を知っていたのは、校内で有名人だった事に加えて、彼女が夏休み前まで都田と付き合っていたらしいからである。
「お前それ…どこ情報なん…?」
俺はその話がとても信じられず、落合に確認する。
「さっき教室で話してたんだよ…齋藤と土屋が…!佐藤の好きな人が誰かって…!」
とても中学生らしい会話だと思う。実際俺もそういう噂話は結構好きだった。
齋藤は俺と同じくソフトテニス部に所属していて、幼馴染の都田とペアを組んでいるうちのエースの一人だ。そして土屋という男は柔道部の部長である。彼らは友人という体を取っているが、個人的には齋藤は土屋の舎弟に近いと思う。
落合は俺の思考が整理されるのを待たずして新たな情報を告げた。
「あ、それと…この話知らない体で頼むよ…佐藤、今日お前に告白するらしいからさ…!」
落合はそう告げると、そそくさと自分の教室に帰ってしまった。
「え、いやちょっと待てって。」
「俺まだ心の準備が!!」
その日の昼休み、落合の予告通り佐藤は俺の元を訪れた。放課後、話があるから駐輪場で待っていると。
─2─
落合のせいで俺は一日中落ち着かなかった。いつもは残り十分間との格闘が苦痛だった授業もぼーっとしていていつの間にか終わっていたし、放課後の部活も何だか身が入らなかった。
(これが…恋の力か…!)
俺は大して交流も無い佐藤の事が、既に好きになっていた。こういうのをちょろいと言うのだろう。可愛いこと以外何も知らないというのに。
練習後、口止めされていたにも関わらずペアの瀬川にはその事をすぐに話した。彼が予想通りのリアクションをしてくれたので、俺は何だか気分が良かった。
「部長の次は副部長かよ!!!」
瀬川のその言葉に、確かにと思わされてしまった。佐藤はテニス部狙いなのだろうか。
───そして放課後。
俺が駐輪場でそわそわしながら待っていると、小柄で童顔の彼女が茶髪のショートボブを左右に揺らしながら小走りで近づいてくる。
ちなみにうちの校則では茶髪は完全に校則違反である。夏休み明けに染めてきたらしいが、周りは相当度肝を抜かれたらしい。先生はなぜ彼女の髪色を放置しているのだろうか。
「ごめーん菅生!いきなり呼び出しちゃって!」
明るく声をかけてきた彼女に、俺の心拍数は一気に上昇する。
「あ、いや、全然、大丈夫。え、どうしたの?」
まともに会話ができない…。こういう時の第一声の正解は何なんだろうか。
俺が心を整えている中、心の準備を待たずして彼女は俺に宣言した。
「うち、菅生の事好きだから!!」
一瞬心臓が跳ねる感覚があったが、その言葉の返事は既に決まっていた。
俺は少し動揺した素振りを見せると、ほんの少しだけ格好つけて返事を返した。
「俺も、実は気になってて…だから…、俺と付き合って欲しい…な?」
こうして、俺と佐藤は付き合うことになったのだった。
その日の夜、ここ最近落合と瀬川くらいしかまともにやり取りしていなかったメールを、入手困難なアドレス宛に送信した。
────────────────────
今思えば、この時少しでも冷静になるべきだった。
彼女との幸せな日々は、一ヶ月後に跡形もなく崩れ去ることになる。
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