喋ると時間が止まる話

お弁当を食べ終わった5時限目はどうしても授業に身が入らない。


ぼーっと校庭で体育の授業中のクラスを眺めていると目の前の席の廣浦和歌がこんなことを言ってきた。


「喋ってる間だけ時間を止められたらどう思う?」


おいおい授業中だぞ?と思いつつ、どうせ暇なのでいつも通りの言葉を返した。


「びっくりするな」


「だよね〜時間が止まって、永遠に話せるなら何を話したい?」


机に突っ伏している俺に顔を近づけて小さい声で言ってきた。近い。


「どうやったら時間が進むか真剣に話したい」


「あはははははは!!時間の無駄じゃん!」


授業中なのに大きい声で笑ってる。


「いや、止まってるんだから無駄じゃなだろ」


んー?と一度首を捻る。


「確かに無駄ではないけど、もったえなくない?」


「まぁな」


ザ・ワールドで無駄無駄されちゃいそう(?)


「でしょ!だったらずっとずっと喋り続けて時間を止め続けたら面白そうじゃない!?」


「喉死なない?」


「だいじょーぶ!私、喉死なないんだー!」


あーそうだった、そうだった。一日中カラオケにいる女だったわ。


にしても重要なこと忘れてないか!?


「おれは!?」


「え!?まさか私と時間を止めてまで一緒に喋りたいの!?」


そーゆー設定じゃなかったのね。じゃあまあいっか。


「別に」


「ガチトーンやめて!」


「あのな?終わりが来るからこそ大切になることだってあるだろ?」


と、なんかどっかで聞いたことあるようなセリフを言ってみた。


「天才か!!」


何言ってんだ?


「お前よりは頭いいよ」


「うわーうざいわー」


ホントのことですけど?


「人のこと言えないだろ」


「ブーメラン刺さっちまったぜ!あはははははは!!」


ブーメランどころか包丁まで刺さってそうですけどね。あなた。


「まぁでも、時間が止まるってのは面白いよな永遠にゲームできるし」


そうそう。時間に追われることもなくゆっくり遊べる。時間が止まるってのは案外いいかもしれない。でも話してないといけないんだっけ。


「ゲームは時間が止まらなくても永遠にできるよ?」


真顔ですごいことを言ってきた。それはお前だけだよ!!和歌!


「そうですか……でもせっかく時間が止まるなら楽しみたいな」


「でしょ!でしょ!グッドアイディアーでしょ!私天才でしょ?」


今日で1番大きい声を出す。


「和歌が天才かは知らんけど、自分で自分のこと天才っていうやつが天才じゃないってことなら知ってる」


「ひどいなー私より頭がいいってさっき言ったよね?」


「ああ」


確かに言った。でもなんで和歌はそんなことを聞いてくるのだろうか。


「じゃあ、何かおかしいことに気づかない?」


可愛くキメ顔を作って、彼女はそう言った。僕はキメ顔でそう言った。僕じゃないな。


「声が大きい……はいつも通りだし、テンションがおかしい……のもいつも通りだし……?」


うん。和歌はいつも通りおかしいよな。


「私のことじゃないし!」


え!?違うの!?


そう思って俺はクラスを見渡してみた。そこで俺は気づいた。みんなの動きが固まっている。俺と和歌以外が瞬き1つしていないのだ。


ペン回しの途中で止まっているシャーペン。大きく口を開いてあくびの途中で固まっている生徒。板書の最中の先生。校庭には走っている最中の生徒。


すべてが止まっていた。


「おいおい時間止まってるじゃねぇかまたキセキ起きちまったぜ」


焦りすぎて言葉が汚くなりました。って元からか。てへっ。


「あはははははは!気づいた!?すごい!私たち時間の外側にいる!」


誰にも聞こえないのをいいことに、今日、1番大きい声で笑う。


「これみんなホントに時間止まってるのか?」


ちょっとは疑ってみるものだ。


「みんな固まってるけど?ここまでしてドッキリは仕掛けないって!」


安心してよ!と、和歌。安心できるかっ!


触ってみるか。そう思って隣の席の、あくび中の田宮の方を叩いてみた。


「起きてっか!?田宮!」


いつも通りなら「起きてる起きてる。じゃあお休みー」とか言い出すはずなのに、今は一言も発しなかった。


「お!!やっぱりね!返事がないでしょ!」


嬉しそうに言う和歌。何が嬉しいんだ?


「いや、田宮が寝てるだけかも」


斜め前の鈴原の肩を軽くポンっと叩いてみた。女子なので軽めに叩いてあげる。


「鈴原、生きてる?」


「返事がないまるで屍のようだ」


「勝手に殺すな!」


親友なんだろ!?鈴原はこの和歌さんに声をかける絶滅危惧種の人ですね。鈴原も変人だな。


「時間の外側にいるってわくわくするね!!世界中に、私たち2人だけみたいで!!」


いよいよこれは時間が止まっていると認めざるおえない。


「だな」


「でもこれどーなったらみんな動くんだろうね?」


心配になったのか和歌はそんなことを言った。


「話すのやめたらいいんじゃない?」


最初に和歌が言った喋ってる間だけ時間を止められる。ということなのであれば話すのをやめればいい。


「それはイヤ!私、涼介と喋るの好きだし!」


いきなり照れること言うじゃんか。


「そうだ涼介。今日、私ん家来てずーっと喋ってよ!」


手を叩いてそう言ってきた。


「まあいいけど」


照れちゃったしね。(照れちゃった、死ね)


「意外とノリ気!今夜は寝かせないぞ!」


イタズラっぽい顔で言う。だから近いっつーの。


あ、でもそうだった。


「時間止まってんだからまず夜が来ないだろ」


「そうだった!あはははははは!!」


和歌は今日、1番大きな声で笑った。


いや、笑すぎだわ。

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くだらないキセキのつかいかた @satukiru

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