一昨日に起きる話


日常会話が一番好きだったりする。例えばこんな会話。


水曜日の朝、学校に行くと目の前の席の廣浦和歌がいつものように話しかけてきた。


「起きたのが一昨日の朝だったらどう思う?」


席替えをしてからこんな事を毎日聞いてくる。俺―武田涼介はいつもと同じ言葉を返す。


「びっくりするな」


ここまで安定のいつもの流れ。


「だよね~起きたらどうする?」


「二度寝する」


今、まさに眠い。朝だぞ!?7時40分だぞ!?眠いに決まってるだろ。


「寝るんかい!」


机をスパンッとやってツッコまれる。


「もう1回同じ日を過ごせるんだよ!?もっと面白いことしようよ!」


「面白いことって?」


「う~ん例えば一日中ゲームをしてみるとか〜?」


「いつもしてるだろ」


和歌は完全にゲーマーだ。放課後、友達と遊ぶ時間よりゲームする時間の方が圧倒的に長い。らしい。


「そうだった!」


大袈裟に驚いて見せる。和歌は元気があり過ぎてそこそこクラスで、いや、学年でも浮いている方だ。正直、一緒に話していると俺も浮くんだよなぁ。


「そもそも学校あるだろ」


「そーだけど、同じ授業もう一回受けるなんて最悪じゃん!」


「それもそうだな」


急にまともな事言いだす。


「せっかくだしどこかにお出かけとか楽しそうじゃない!?」


「何がせっかくだよ。一昨日に起きられるってまだ決まったわけじゃないだろ」


和歌と話していると話に飲み込まれていくような気がする。言葉を返したくなるようなそんな気分になってくる。


「夢がないな~ほら!お出かけのこと考える!」


机を(激しく)叩いてそう言った。やめろ、壊れるから叩くな。和歌、小学校の時に机を壊しているのだ。もう怖い。


「まあ出かけるのもいいかもな」


2人とも基本的に引きこもりだからね!


「でしょ〜!カラオケとかどう?一日中ずっと歌ってみた!」


「喉死ぬぞ」


和歌は死ななそうだけど。


「よさそうじゃない!?」


「そうですね……」


思い立ったら話は曲げないんですよね。


「でしょ!じゃあ今度行こうカラオケ!」


「何がじゃあだ」


もしもの世界の話なのに現実につなげちゃった。


「いいけど別に」


「なんで少し嫌そうなの~?」


「だってお前ずっと歌いっぱなしで俺歌えないじゃんか」


クラスのみんなでカラオケに言った時、和歌が10曲連続で歌い続けるとかいう意味が分からない事件があった。『和歌カラオケ事件』。他にも事件がたくさんありますよ。言いたくないけど。


「ごめん!我慢して!」


「いや譲れよ!」


『和歌カラオケ事件』の時も「我慢して!」を言い続けてましたね。ハイ。


「ん〜無理」


結構可愛く言いやがった。


「かわいく言ったら許されると思うなよ」


ため息出ちゃったよ。


「私のことかわいって言った!?」


廊下にまで聞こえるぐらいの大声を出した。うるせぇ。


「ああ。かわいいよ」


面倒なので適当に答える。


「む~わざとらしいな~」


「わざとだからね」


「わざとなんかい!!」


やったね!話がそれた!


「にしても同じ日が2回も過ごせるって嬉しいよね」


最初に戻ってきた。見た目通り、いや、見た目は美少女なのだが、和歌は結構アホだ。


「確かにな。失敗とかやり直せる」


そうそう。こんな会話をするようになったきっかけの席替えとかね!とか言いつつもだいぶ長いこと和歌と一緒にいるので普段から会話はしていたのだが。


「そういう意味じゃないの!」


「過ごしたことない同じ日が過ごせるんでしょ!?そんな日って最高じゃん!ってこと!」


珍しくいいこと言うじゃん。


「それは同意。朝起きたら一昨日とか最高よだな」



次の日、朝目を覚ますといつも通りの天井があった。

いつも通りスマホの電源を入れ、日付を見て俺は固まってしまった。


「まじか」


そこにあるのはおとといの日付。思わず驚きの声が出た。


一昨日じゃんか。まじか。まあせっかくだし学校サボりますか。


と、いうことで顔を洗ってから鼻をつまんで(鼻声の真似)軽く咳をしながら(風邪のふり)学校に電話した。



とりあえずコンビニ行くか。と思い近所のコンビニに向かう途中、聞きなれた元気な声が聞こえた。


「おっはよ~!」


ジャンプしながら手を振っている。

知り合いだと思われたくないので無視してコンビニに入った。


「なんで無視するの!?」


ぷんすか言いながら、はっきりと口に出しながら俺を指差す。


「幻覚かと思った」


「ひどい!!」


朝っぱらから大袈裟に驚く。いつも通りだな。

和歌も今日が2日目なのだろうか。


「なんで私服?」


と聞いてみたら。


「涼介もでしょ」


と言われたので。


「俺は今日が2回目だから学校行かなくていいんだよ」


と返した。


「じゃあ私もだね!」


やったね!と言いながら和歌が言った。


キセキ起きちまった。心の底からこう言った。

まあ今に始まった事ではない。席替えの日からこんな少し不思議な現象が起きるようになったのだ。


「じゃあ予定通りカラオケ行こ〜!」


コンビニでは結局何も買わず、外に出た時に和歌はそう言った。


「予定通りかい!」


久しぶりに大きい声を出してしまった。



カラオケに着くと彼女は当然のようにこう言ったのだ。


「とりあえず10曲聴いてね!」


やっぱしそうなるよねー!!!!!




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