第40話 そして当日!!

 贅沢にも、余った時間があったので、みなさんとで草履を作ったり、さらによい作品にしあげてみたりしていた。


 また、問屋さんにそそのかされた狐が侵入してくるかもしれないという理由から、色打掛とドレスは太郎さんのお部屋で厳重に管理されていた。


 何気なく廊下を歩いていたら、仕事中のイチコさんと出会ったこともあった。だからあたしは、あたしである為のお礼をイチコさんに告げることにした。


「イチコさん。いつも太郎さんのことを癒やしてくださり、どうもありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げると。いつになく取り乱した様子のイチコさんに、顔をあげてくださいと言われてしまった。


 顔をあげたら、イチコさんが妙に艶めいて、頬が赤く染まっていた。


「わたくしは、夏希様に罵られるべきですのに、そんなもったいないお言葉を。なんと答えるべきなのか、わたくしにはわかりません」

「多分、それでいいのだと思います」


 そしてそれ以来、太郎さんがあたしの部屋に来ることはなくなった。


 希望と絶望と、どうしようもない寂しさに包まれたまま、いよいよ問屋さんとお静さんが現れた。


 あまり意味はないだろうとは思ったけれど、不公平にならないよう、スタイル抜群の狐さんたちに、それぞれの衣装を着てもらい、廊下を歩いてもらった。


 うん、色打掛をこうして見ると、本当にお静さんが着ていたことを思い出すし、ドレスに至っては甘すぎず、整いすぎずで、歓声があがるほどだった。うん、これぞまさに宝塚の男役っぽい。ブーツがなかったのは残念だけど、みんなで持ってきてくれた端切れやなんかを引き裂いて草履に蘇らせることもできた。とてもカラフルな草履で可愛い。


 一方の問屋さん側はというと。


 なんで知っているのだろう? というほど日本的なメイド喫茶のウェイトレスさん風なコスチュームがあったり、オーバーオールなんかもあったり、はたまたこれぞ高級な反物だとばかりに、派手な色味の着物まであった。


「どうですかい? お静様。あなた家で寝泊まりするわ、突拍子もなくわしの金で買い物し放題だわ、今回の勝負、ちゃんとわかっておりますよね? ね?」


 念を押した問屋さんは、お静さんに圧力をかける。そうかぁ。そっちはそんなことになっていたのか。


 さて、結果は!?


「ぼくが着たいのは――」


 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る