第39話 ついに完成!!

 ここにいるみんな、太郎さんまでとても楽しそうに作業してくれている。


 もし、人間界にいた時、あたしが少し勇気を出したら、手芸の輪は広まったかな?


 それでも変な子だってレッテルがついて回るかもしれない。でも、もし諦めなかったら、少しは楽しい学生生活をおくれたかもしれない。


 もう、戻ることはないけれど。


 あたしにとっては、遅れてきた青春みたいな気持ちになれる。手芸ってやっぱりすごいや。


「こちらは色打掛いろうちかけが完成いたしました」


 わぁー、って、みんなで目を輝かせた。


 あたしも、あの時お静さんが着ていた打掛だと確信した。


「では、後はハットにチュールをつけるだけですね。あたしたちもちょうど刺繍が終わったばかりです」


 ふと気になってミコさんを見れば、よっぽど集中していたのか、かなりよれよれになっていた。


「大丈夫ですか? ミコさん」


 あたしが声をかけると、ミコさんはハッとなって背中を伸ばす。


「だ、大丈夫です。とても楽しかったものですから、終わったらなんだか寂しくなってしまって。また刺繍をしたいなぁ、なんて思って」

「それなら、もっとたくさんのステッチがありますので、お時間がある時にでも、やってみませんか?」


 ミコさんの首がゆーっくりとイチコさんとニコさんの方を向く。二人は、仕事さえちゃんとしてくれるのならかまいませんよ、と言ってくれて、ミコさんはとても嬉しそうだった。


「えっと、それではお針子担当のゴコさんとロッコさんにお願いがあります。ハットにチュールを縫い付けてくれませんか?」

「もちろんでございます」

「注意することってありますか?」


 ないない。お針子のお二人もプロ級です。


 そして、驚く程あっという間に時間が過ぎた。ハットにチュールを垂らすようにつけてもらって、かんせーい!!


「みなさま、完成です!! この短い時間で、よくここまで作ってくださいました。ご協力ありがとうございます」


 あたしはみなさんに頭を下げる。


「そんなの、言いっこなしだぜ、夏キング。あーしらも充分楽しかったからな」


 あはははっと、みなさんで笑いあっていたけれど、太郎さんとイチコさんだけは、どこか上の空だった。


 この後も、きっと二人で……。おっといけない。それは考えちゃいけないやつだ。


 イチコさんはともかく、あたしは太郎さんを信じるって決めたんだもん。


 そして完成の宴に興じていたあたしたちは、最高に楽しい夜を明かしたのだった。


 つづく




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る