第35話 決意もあらたに

 そうだよ、とっても大切なことをどうして忘れちゃっていたかな?


 あたしは、どんなことがあっても、太郎さんを信じる。そして、あたしだけは太郎さんを裏切らない。もし他の人が太郎さんを誘惑するようなことがあれば、その時はあたしが太郎さんに口づけをする。


 だってあたし、太郎さんのことを守るって決めたのだもの。


「ニコさん、ヨンコさん。大切なことを思い出させてくれて、ありがとうございます」

「は? あーしら喧嘩してただけなんだけど。んー、キングが元気になったんなら、それでいいや」


 そしてまた、膳を片付けてもらって作業の支度をする。


 そして、肝心のイチコさんと太郎さんが滑るように廊下を歩いてきた。


 よしっ!! 女は努力と実行力!! メソメソ泣いている暇なんてないんだから。


「太郎さん」


 太郎さんの真正面に立ちふさがったあたしの顔は、きっと真っ赤に違いない。それでも。


「太郎さん、好きです」

「お? ああ。我も夏希を愛しておるが?」

「なら、いいですよね?」


 あたしは精一杯背伸びをして、太郎さんに口づけた。イチコさんが悪いんじゃない。太郎さんの気持ちに付け入る隙を与えた、あたしが迂闊だったんだ。


 太郎さんはしなやかな動作であたしを抱きすくめ、そしてとても濃厚な口づけへと変わる。


 絶対に守るからね。信用してるからね。あなたにたくさん笑っていて欲しい。たとえあたしが道化だとしても。


 長い口づけの後に、ため息が出て、ガクリと折れたあたしの膝を、お姫様抱っこしてくれて。


「皆の前でするのもいいかもしれんな?」


 ……みん、な。


 うわっ!! あたし、ついみんなが見ていたことを忘れていましたしまっていたよ。はっずかしぃ。


「えーと。それでは、午後からも頑張りましょう!!」


 いやもうさ、みんなニヤニヤ笑うけどさ。イチコさんだけ目が死んでる。


 いいもん。あたしだけの太郎さんなんだもん。


 気合い注入!! おかげでドレスの全貌が見えてきた。


 あとは、小道具箱の中にたっくさん持ってきたビーズやスパンコールなんかで上品に飾って。


 昨日の間にズボンを作っていてよかった。なかなかの力作で満足、満足!!


 更に、着物さんチームも大体出来上がってきたから、残りの作業はまた明日にすることになった。


 手芸は、この充足感がたまらないんだよね。完成したら、もっと開放的な気持ちになるかもしれないな。


 さて、みんなでお夕飯を食べ終えて、お風呂も入って浴衣に着替えたから、後はもう眠るだけ。


 おやすみなさぁ〜い。


 つづく


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