第33話 縁

 あまりの衝撃に腰を抜かしかけたあたしを見て、みんなが笑う。


 え? だって、年の差とか、そういうのはっ?


「夏希や。この小芝居は、お静が城に入った頃よりつづけられている。そして今回は、必ずや問屋を追いつめるべき証拠を入手できたのだ」


 あたしは喉を鳴らした。


「その、証拠とは?」

「染め粉と共に、ある薬品が検出されたのだ。そしてその薬品は、母上の精神を壊し、父上を操り人形にして我をこの世界から追い出し、そして父上をも殺したものと成分が一致している。後少しで問屋の鼻をあかせるのだよ」

「そして、お静様からも同成分が検出されております。太郎王様にも少しずつお茶などに含めて飲ませていらっしゃいました」

「なんと恐ろしいことを」


 ここまでの証拠を集めるために、どれだけの時間が必要だったのだろう。考えただけでぞっとする。


「そしてこのお部屋でしたら、わたくしはイッシー様と存分なくいちゃつけるのでございます」


 その間、太郎さんはなにをしているのだろう、とも思いつつ、やっぱり気になってしまう乙女心。


「あのっ。失礼を承知で御伺してもいいですか?」

「かまいませんわ。でも、ここで見聞きしたことは、部屋を出ると同時に記憶を消させてもらいます」

「どうして?」


 夏希や、わかれ、とばかりに太郎さんが呆れている。


「そっか。あたし、すぐ顔に出ちゃうものね。はい、そういうことでしたら、お気遣いなく記憶を消してください」

「ふむ。ではしばらくは夏希の部屋で寝起きはできんな」


 太郎さんがわんぱくな少年のように口をすぼめた。


「それで、夏希様が知りたいのは、わたくしがイッシー様のどこをお気に召したのか、ですわね?」

「はい。なんか、ごめんなさい」


 この部屋を出たら、こんな笑顔を見せてくれることはないだろうイチコさんが、言いたかったとばかりに口を開く。


「かまいません。これも、皆に知られてはならない恋なのです。実はわたくしは、口減らしのためにうっかり女郎小屋に売られるところでございました。そこを偶然、イッシー様が法外な金額でわたくしを買い取ってくれたのです。その優しげな笑顔にいつも癒やされ、気づけばイッシー様しか見えておりませんでした」


 おおー。恋のはじまりって、素敵だなぁ。いいなぁ、そういうのも。


「わたしの方は年も年じゃし、恋愛に興味はなかったのだが、その真剣な眼差しに負けて、大変可愛らしゅう見えたのだ。状況がこんなでなければ、とっくに式をあげていたところじゃよ」


 へぇー? そうなんだぁ。


「もしあの時、イッシー様がわたくしに目をかけてくださらなかったら、今頃やさぐれていたに違いありません」

「あれ? でも、どうしてそんな場所にイッシーさんがいらしたのですか?」

「そこも縁だよ。イチコの忍びの兄が、なんでもするから妹を助けてやって欲しいとせがまれてな。せっかくじゃから、女中として働いてもらえれば、と思って」


 なるほど、そういう御縁があったのかぁ。いゃあ人生捨てたもんじゃないよね。


 つづく





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